お知らせ


うど(独活)


うどは、日本で春の代表的な山菜として知られており、天ぷらを始め、きんぴら、酢の物、サラダ、味噌汁など季節の味が楽しめます。独特な香が癖になる爽やかな風味が人気の野菜で、食用として長く栽培されてきました。うどの収穫は山菜採りによりますが、春になり江南の山に登ってタケノコを掘るのと似ています。また、うどを歌った俳句も数多く残されており、皆さまとの鑑賞用に、柔らかな日本美を凝らした二句を抜粋してみました。
「雪間より薄紫の芽独活かな」
「山独活のひそかなる香の 我が晩餐」

一方、中国でうどと言えば、二千年以上遡って「神農本草経」に記されている伝統的な漢方の生薬です。四川省西部の羌(チャン)族がいる地域に生息するうどは、羌(チャン)活と言われていますが、うどと同じであるかどうかは、古くから争論が絶えません。現在の中薬学では、羌活は解表薬(かぜ薬)とされ、駆風寒薬に属し、風邪を治し、風湿を取り除くほか、痛み止めの効能があります。風邪の場合は頭痛や関節の痛みを兼ねた時しか使いません。味は辛く苦みがあり、体を温める性能を持ち、膀胱経と腎経に入ります。羌活は、駆風湿薬に属し、性味は独活と同じく、風湿による筋肉のこわばりや痛み、痺れなどを除く効能があります。《本草正義》には、「羌活と独活は、古くから分けない。」とあり、《本経》(《神農本草経》の略)では、「独活は別名羌活と言う。」とあります。この為、《本経》、《別録》に独活は載っていますが、羌活の記載はありません。《綱目》(《本草綱目》の省略)では旧名のまま使っていましたが、二つは色形が異なり、香にも濃淡の差があると謂いました。また、羌活は上半身の風、寒、湿を治し、独活は下半身を治すため、分けて使用すると効果抜群であるとされています。独活、羌活に関してここまで書く先賢はさぞかし研究を極めたことでしょうが、隣の国では、独活が実はただの卓上で食べる美味しい山菜だったと、もし先賢が知ったらどう思うでしょうか。私も最近の調べで、生薬の独活と日本のうどは違う種の植物だと分かり、非常に残念でなりません。

 


オオクログワイ(荸荠)


オオクログワイは上海語で地栗(dili)と言い、寧波なら菩荠(puqi)とか馬蹄(mati)と呼ばれ、地方によっていろいろな名前が付けられています。野菜市場やスーパーの店頭に並び、手頃な値段で買える庶民的な果物野菜です。見た目は、暗褐色の薄い表皮に包まれ、中は白色、水田の土中内に生えるしずく型の塊茎です。寄生虫を防止するため、良く洗ったあと一度煮沸した湯に通して皮をむき、煮ても炒めても水水しい歯ごたえで甘みがあります。

さらに、オオクログワイは美味しい野菜果物というだけではなく、漢方の生薬でもあります。甘くて寒冷の性質をもち、肺、胃、大腸の経絡に入るので、痰をなくし、口や喉の渇きを潤し、目にも効きます。特に、咳による黄緑色の痰がでる方、発熱による口の渇き、煩わしい便秘などの症状がある方に適し、また、赤く痛い目の症状にも効きます。清(王朝)の名医王士雄は、「口の中に残らず甘い。皮が赤い大きめの物が良く、風にあてて干した物は更に良い。食べ過ぎて腹が張り、気の虚弱や胃腸が冷えた者には禁ずる。火を通すと平穏な性質をもち、料理に入れても良い。」と述べています。つまり、オオクログワイは熱を持つ痰等に効き、軟便や下痢、勿論胃腸が冷えている方は避けた方がいいということです。

食で養生(体を良くしたい)場合、食べ物の特長や禁忌を把握しなければなりません。単に美味しいからといって食べ過ぎも良くありませんが、薬として食するのであれば、なおさら自分の体に適しているかどうかを確認しなければなりません。よく耳にするのが、棗(なつめ)が体にいいからと毎日5個ずつ食べているなどの話です。確かに、棗の味は甘く体を温め補う効能はありますが、消化しにくく胃腸に負担をかけるため、特に夏バテや体に湿がこもっている場合は全く逆効果の症状が出てしまうことがあります。この為、食べ物は一般的な良い悪いではなく、自分の体に合う合わないを基準に選んでいきましょう。

 


花粉症対策――生姜紫蘇茶


閉じ込められていた日々が、冬と共に過ぎ去りゆき、明るい光の下で、梅や木瓜、桜など、春の花々が一斉に咲き乱れる麗しい季節となりました。同時に、くしゃみや鼻水、鼻づまりに襲われ、ティッシュの使用量が、一日に一箱では足りないほどに苦しんでおられる方々が、沢山おられますね。これは、季節性のアレルギー鼻炎で、一般的にいう「花粉症」です。

なぜ、花粉症は、春に発症するのでしょう?皆さまも、ご周知のとおり、花粉症とは、人体の免疫機能が、空中に浮遊する花粉に反応して起こる症状とされていますが、これを漢方医学的な視点から述べますと、いささか異なる解釈となります。

古代中国においては、人間への影響が強いとされる気候現象を、風、熱、暑、湿、燥、寒の六つに分類し、人間の邪魔をするという意味から「六邪」と呼んできました。このなかで、風の邪とされる「風邪」(フウジャ)は、春の主たる「気」であり、冬の骨を刻むような寒さこそないものの、風が強くて晴れると汗ばみ、陽気が強く、皮膚の毛穴が開いてしまうために、薄着をすると、朝夕の冷たい風に吹かれて、鼻が詰まり、鼻水が垂れて、くしゃみが止まらなくなるという特徴があります。これらの「風邪」による症状こそが「花粉症」の正体です。

そこで、今回は、花粉症対策に効果抜群、「風邪」に良く効く薬用茶「生姜紫蘇茶」をご紹介いたしましょう。材料の生姜は、一般のご家庭の台所でも、よく見かける薬味、紫蘇は、お刺身に添えている爽やかな香味の紫色の葉です。両方とも、ごく普通の野菜ですが、実は、伝統的な漢方の発散薬でもあるのです。

紫蘇は「辛、温」の性質を持ち、肺と脾の経絡に入り発汗を促して、かぜを治します。また、気の流れを調えて胃腸の機能を回復させ、魚介類の毒を解消する効能があります。続いて、生姜は「辛、微温」の性質を持ち、肺、脾、胃の経絡に入り発汗を促し、かぜを治して、胃腸を温めて嘔吐を止め、魚介類の毒を消します。このように、生姜と紫蘇の効能は、大変よく似ているために、併用すると素晴らしい相乗効果を、もたらします。風や寒さによる、かぜの症状に、大変良く効きますし、また、気持ちが悪い、嘔吐、胃痛などの胃腸系のかぜにも有効で、さらには、魚や蟹、海老などを食した後に生じる同様の症状にも適応します。

作り方は、とても簡単で、生姜と紫蘇を、それぞれ3グラムずつ、細切りにしたものに、カップ一杯の水を加えて煮立たせた後、黒砂糖15グラムを加えたら出来上がり。時短メニューとして、生姜と紫蘇の細切りに、お湯を加えて15分ほどおいた後、温かいうちに飲用するのも良いでしょう。甘い味が苦手な方は、刻んだ生姜と紫蘇を味噌汁の具にするのもお勧めです。紫蘇が、お手元にないときには、代わりとして梅干しを使ってみてください。ちなみに、この生姜紫蘇茶は、風熱による鼻づまり、黄緑色の鼻水、口が渇いて水がほしい、便が固く、ごろごろとして出ないなどの諸症状には適しませんので、ご注意ください。

ものは試し。花粉症や、ちょっとした鼻かぜの症状がある方は、是非、作って飲んでみましょう!

 


漢方と持病


 〜新型コロナウィルス流行に際しての漢方医学的視点について〜

日々、刻々と増加し続ける新型コロナウイルスによる重症者、死亡者数を知らせる報道が、巷に溢れております。こうしたニュースを、目にし、耳にするたびに、心痛む思いを禁じ得ることが出来ません。

ウィルス流行に関して、患者の隔離や消毒は、確かに、大変重要な対策ではあるものの、感染時に、一番有効であるのは、実は、自らの持つ免疫力なのです。このたびのウィルス流行においても、残念ながら惜しくも、鬼籍に入られた方々は皆、既に、以前から持病を持っておられた方が多い。ここで言う持病とは、高血圧や糖尿病、心臓病などの慢性的な病気を意味します。日頃から、慢性的な病を持つ身体は、免疫機能が低下しているために、ウィルス等の侵入を受けると、病に負けやすく、遂には、潰されてしまう。これが、まさに<黄帝内経>が説く「正気存内、邪不可幹、邪之所湊、其気必虚」の意味なのです。ですので、ウィルス感染が社会に広がる疫病の状態になってから、何か防ぐ方法がないか、漢方の良い予防薬はないかと慌てて対策を講じるのではなく、健康に留意し、身体が病気に対抗する力を養う日課を、常に日頃から心掛ける、これこそが、最高で最善のウィルス対策と言えるのです。

では、その日課とは何か。多く疾病の発生は、長期間に渡るストレスや睡眠不足と関連していることに、そのヒントがあります。日本では、高血圧や心臓病、糖尿病、癌などを含めた不健康な生活習慣による病気を、生活習慣病と呼んでいます。ここでの生活習慣とは、具体的には、毎日の食べ物、飲み物、睡眠や排泄などを指しますが、こうした生活習慣病、言わば、慢性病を避ける為には、日頃から楽観的な考え方をし、栄養のバランスの取れた食事を摂り、休息を定期的に取る、そして排泄するという良い習慣を、健康を養う日課として少しずつ積み重ねていくしかありません。

既に持病を持っている方々は、このたびのウィルスの件より、事態の深刻さを再認識され、自らの健康問題の解決へと力強く前進いたしましょう。西洋医学での治療が難しい場合には、漢方医学を試してみるのも一案かと思います。また、漢方には、病になる前に体の調子を整える「治未病」という概念がありますので、今のところ、特にこれと言った持病はないにしても、例えば、頭痛や目まい、寝つきが悪い、顔色が優れない、常に疲労を感じている等、日常生活で、色々と気になる症状のある方々に適した多くの治療方法があります。

はるさわクリニックは、今暫くの間、診療再開が出来ないために、皆さまには、大変なご迷惑をお掛けいたしておりますこと、誠に心苦しく、本当に申し訳ございません。

休院中のご体調などのご質問に関しましては、WeChat にて、ご相談をお受けいたしております。ご遠慮なきよう、どうぞ、ご利用くださいませ。

 


ヨモギは消毒殺菌効果があるのでしょうか?


新型コロナウィルス感染が広がる中、伝統的なヨモギを燻ぶる方法は消毒効果があるのかと多くの中医好きな方に聞かれています。この質問について、まずヨモギの使い方と効能をみてみましょう。ヨモギは漢方の薬として内服と外用二つ用途があります。

内服薬としてのヨモギは艾葉と名付けられ、やや辛くて体を温める性能があり、気血を和らげ経脈を温め、冷えた痛みを止めます。<金匱要略>の中には膠艾湯という処方があり、艾葉は膠艾湯中のメイン薬で、崩漏に有効であると記されています。(崩漏は中医の専門用語で、女性特有の不正出血を指します。)この膠艾湯は現在津村漢方にもエキス剤で生産販売をしています。また、<本草網目>にもヨモギの記載があり、婦人科の良薬の一種なのです。やや辛くて苦い、温熱の性能を持ちヨモギは肝臓、脾臓、腎臓の経絡に入り、生理痛や不正出血、冷えによりお腹の痛みなどを治り、特に下焦虚寒の痛みに良いです。(下焦は中医の専門用語で腹部、臍から下を指します。)ただし、以上の病は漢方的な熱を持っている場合は、清熱剤を併用することが必要です。

ヨモギを外用する場合は、艾葉を乾燥させ粉々にして、もぐさにして使います。お灸は体を温め、気血の流れを促進させます。体の強ばりや疼痛などの症状に効きます。現代薬理研究によるとヨモギはアブシンチンが含まれており、煎じたヨモギ剤は血管を収縮させ、大量の使用は痙攣を引き起こします。また、サルモネラ桿菌や赤痢桿菌、結核桿菌に対して明らかな抗菌作用がありますが、実際、空気中のウィルスを消毒することができるかどうかは、なかなか科学的な根拠を見つけませんでした。

また、ヨモギは邪を取り払う作用があるという方もいます。確かに中医学では、身体への影響が強すぎる気候は「六邪」(風、寒、暑、湿、燥、火)と呼びます。ヨモギは寒湿を取り除く作用はありますが、ここで言う邪と俗語で魔除けの邪気では同じことではないです。

 


新型コロナウィルス感染に関して、中医は予防と治療に有効でしょうか?


今回、新型コロナウィルス感染の状況は日増しに酷くなり、私たちに大きな不安を与えています。その中で中医に関して話題のトップに上っているのが「双黄連」という薬です。巷で噂になっている情報を見ると、多くの誤解を招いているため、医者の立場から、少しでも皆様の助けになればとこの文章を書きました。世間で飛び交う様々な情報や見方を正すことを望んでいるのではなく、あくまでも長年習得した知識を参考にして頂ければ幸いです。

1、中医は有効だと考えます
現代までの西洋医学が発展し、ウィルス感染に対し消毒や隔離、救急重症患者に対する緊急処置、危篤患者を救う治療などは、西洋医学の長所であり中医の欠点であることは間違いありません。よって、先ずは皆さんには、マスクを着けること、頻回の手洗い、換気をこまめに行うことをお勧めします。また、十分な睡眠、バランスのとれた食事はウィルスに対する抵抗力を高めます。しかし、西洋医学と中医学を対立させ、どちらか一方のみを良い悪いと判断して選択する方法はあまり科学的な良い選択だとは言えません。

中医学は今までたくさんの病気を治療し、どうしたら治癒できるのか豊富な経験を積んできました。まだ西洋医学が発展していない時代に、一般的な風邪から流行りの疫病まで、いわば急性伝染病に対する知識と治療方法はたくさんあります。歴史の時代ごとに急性伝染病は「傷寒」、 「温病」、 「温疫」、「戻气」、 「時气」などそれぞれの名で呼ばれて来ました。今、医師の神様と尊敬されている張仲景は約二千年前の漢時代の名医で、当時「傷寒」と呼ばれている流行り病と闘う中で「傷寒論」を書きあげました。彼が書き始めに「余宗族素多,向余二百。建安記年以来,犹未十稔,其死亡者,三分有二,傷寒十居其七。感往昔之淪喪,傷横夭之莫救,乃勤求古訓,博采众方…為《傷寒雑病論》,…雖未能尽癒諸病,庶可以見病知源。若能尋余所集,思過半矣。」と述べました。簡単に言えば張仲景一族は二百人もいたが、「傷寒」と言う病気で三分の二がなくなった為、彼は先輩たちが残した処方や書籍などから研究を積み重ね、《傷寒雑病論》を作りあげました。張仲景が作った処方は今「経方」と呼ばれて、今でも中医の臨床に不可欠な存在です。

2、一種類の薬だけでは無理があります
中医が病気を治療するために最も研究されているのは弁証論治です。日本では「証」と言います。治療を施す為の原因や根拠です。今回の新型ウィルス感染の「証」は“寒湿”と言われています。この原因が明確になれば使える処方も出てきます。傷寒には麻黄湯と桂枝湯、温化水湿には苓桂朮甘湯が効きます。もし、寒湿の状態から熱に転化するならば大青龍湯と麻杏石甘湯がいいでしょう。また、温病学の治療方法も参考になります。先ずは熱が気にあるのか、血にあるのか、または気と血両者にまで及んでいるのかを判断します。もし、気に熱があるならば温熱なのか湿熱なのかで治療方法が異なります。血までに熱が入っているなら犀角地黄湯などの薬を使います。中医学は発症してから治癒するまでのプロセスを把握しているので、それぞれ症状と時期に応じて使用する薬が異なります。一種類の薬だけで治療するのは無理があります。全身機能不全に到った状況は、中医学の言葉で表すと「亡陰」または「亡陽」です。「亡陽」は汗びっしょりになり、脈が弱く瀕死の状態です。この場合は「回陽救逆」が必要で、四逆湯や参附湯を使います。もし、「亡陰」なら「急救存陰」が必要で、参脉飲などを処方します。当然、これは基本的なことなので、実際には患者さんを直接診察してからの判断になります。

3、予防はどうすれば良いでしょうか?
現在一番関心を集めているのが予防の仕方です。それはやはり普段の身体の状態から判断することになります。先ずは体に何が不足しているのか、また何が過剰にあるのかを見極め、不足している場合は補い、過剰な場合は取り除き、バランスを考えて調整していきます。 不足している場合、「虚」であれば、「玉屏風散」や「補中益气湯」などを使います。余っている場合は、「実」と言います。例えば火旺などがある場合には取り除く薬を処方します。大切なことは、普段何か不調があれば直ぐに医者に診てもらい、身体を改善していくことです。

病気が流行り出したからと、急いで中医の薬を思い出し、何か予防方法がないかと焦るのではなく、普段から体に気を付けて対処することが大切なのです。多くの人が中医はあまり効かないというのですが、普段の対処が効くのです。

4、休診のお知らせ
衛生健康委員会の要請により、休診日を2月29日まで延長させて頂いており、皆様には大変ご迷惑をお掛けし申し訳ございません。何かご質問、ご相談がございましたらWechatでも受け付けていますので、どうぞよろしくお願い致します。

 


VDT症候群


現代生活の中で、私たちがパソコンや携帯を見ない日は一日もありません。眠っている時以外、仕事中、在宅中、移動中と、パソコンや携帯を見ない時間の方が少ない日もあるのではないでしょうか。そこで、今回は現代病とも言えるVDT症候群についてお話しします。

VDT(Visual Display Terminal)とは、パソコンや携帯電話、タブレット端末などの表示機器をいい、VDT症候群とは表示機器を長時間使用することによって起こる様々な症状をいいます。

VDT症候群の主な症状としては、目の疲れ、かすみ、かゆみ、そして視力の低下などの目の症状、それから、手の疲れ、しびれや痛み、肩こり、肩の痛みなど、手から肩にかけての症状があります。またこの他にも、腰痛、背部痛、頭痛、吐き気、疲労感、抑うつ、睡眠障害など、様々な症状が現れることもあります。

ご自分では、腰痛や肩の痛みを感じて来院された患者様でも、診察してみると、腰や肩のほか、目や手などにも症状が見つかることがあります。また、運動やマッサージなどをいろいろ試してみても、なかなか症状を改善できずに、来院される患者様もいらっしゃいます。少しでも気になる症状がある場合には、我慢せずに一度ご相談ください。

 


冬季うつ病の予防


寒い冬は、うつになりやすいと言われていますので、天気の良い日には、できるだけ屋外に出て、太陽にあたることをお勧めします。魂が日々の流れに追いついていけないと言われるこの時代、歩むスピードを少し落として、一休みすることも必要でしょう。 普通、人はストレスを受けても回復する力を持っていますが、長期間ストレスにさらされたり、思いもかけない出来事に遭遇したりすることをきっかけに、うつ病になってしまうことがあります。主な症状としては、やる気が起きない、何も楽しく感じられない、集中力が続かず仕事の能率が落ちた、眠れない、体の調子が悪い、疲れやすい、簡単なこともおっくうに感じる、食欲がない、または過食気味などがあげられます。

また、周囲が気付く症状としては、最近笑わなくなった、口数が減った、ため息が多い、怒りやすい、お酒の量が増えた、眠れていないようにみえる、身だしなみに気を使わなくなった、死を口にするなどがあります。

一般的に、西洋医学のうつ病治療は、薬物療法や心理療法などで、体質や原因が異なっていても、同じ症状に対して同じ内服薬を処方することもよくあります。一方、中医では、人それぞれ異なる原因を探り、その人に合った治療を行います。また、うつ病は本人には自覚がなく、家族や同僚がちょっとおかしいなと気が付くこともあります。症状が重くなれば、休職や長期の治療が必要になることもありますので、気になる症状がある場合は、早めに受診されることをお勧めします。

 


ゴマとクルミの粉


12月に入り上海は本格的な冬になってきました。この季節は正に膏方の時期で、健康意識が高い人達が早めに各大病院で膏方を処方してもらい、冬季に入る前に体を補う準備をします。しかし、膏方はややもすれば数千元はかかるため値段からするとやはり高価です。一方で、実は冬にはいくつか一般価格で手に入る養生の食品もあります。――――例えばゴマとクルミの粉です。毎年冬になると、老舗店の町並みを通る時、良いにおいがしてくるのが、ゴマとクルミを製粉した後にできるゴマとクルミの油(脂)の香りなのです。

中医から言うと、黒いゴマはあまくて、体に平穏な性質を持ち、肝、腎、大腸の経絡に属します。肝臓・腎臓を補い、陰血を良くします。くらくらする目のかすみ、耳鳴りがする聴覚障害、ひげや頭髪の白髪、病気になった後の脱毛、腸の乾燥している便秘に用います。殻を取り除いたクルミの味は甘くて体を温めます。腎臓、肺の経絡に属します。腎臓を補い、肺を温め、便通をよくします。膝腰がだるい、咳の風邪、便秘に用います。

ゴマとクルミの粉は腸の乾燥している便秘の人には食用として非常に良いのですが、脾臓が虚弱で軟便または下痢をしている方にとって良いことではありません。物事は二面性が常にあり、特定の良い物良くない物はありません。正しく用いることが一番肝心です。中医が病因・症状などを分析し治療法を判断する、その精妙さがその意味を証明しています。もしも自分の体の状況を理解できないのであれば、信頼できる中医を探して脈を診てもらってはいかがでしょうか。

 


秋の乾燥に良い食べ物―――百合<隣茎>


秋になると雨が少なくなり、空気がとても乾燥してきます。のどがいがらっぽくなったり、空咳が出たり、常に口の中が渇いて何かを飲みたくなるという方も多いでしょう。こんなときは、百合(ゆり隣茎)の出番です。百合といえば、すぐに緑豆百合湯が思い浮かびますね。でも、緑豆百合湯は、夏には良いのですが、秋、飲むには向いていません。なぜなら、夜がだんだんと長くなり、日に日に肌で冷えを感じるようになる秋には、緑豆が体を冷やしすぎてしまうからです。

市場で売られている百合は二種類あり、やや黄色っぽい百合には、少し苦みがあります。苦みは熱を抑えるので、陰が不足し陽が強い人に向いています。真っ白い百合は、甘味があり平穏な性質を持っているので、体を冷やすこともなく、秋冬に適しています。

百合の薬効は隣茎の部分にあり、滋陰薬に属します。甘、微寒な性質を持っており、肺を潤し、胃の働きを補い、心を安らかにします。また、長引く風邪や咳を治すなど、のどにも効きます。百合は、大きく真っ白で、甘く、芳しいものが良いです。蒸しても煮てもよいですが、薄味のまま食べた方がよいです。陰が不足し熱を持った咳が出る場合には、お粥に入れたり、肉と一緒に煮込んだりしてもよく、長期間、食べてもかまいません。また百合は、食べておいしいだけでなく、体の虚弱を補う効果もあります。ただし、「寒さが原因の咳や痰が出たり、胃腸が冷えて下痢をしたりしている人は避けること」と古い本に記載されています。このように、百合は良い物ですが、誰にでも効果があるわけではないので、特に風邪や下痢の症状がある場合には、食べてもよいかどうかを正しく判断することが必要です。

百合の生薬としての歴史は、二千年以上あります。有名な「百合固金湯」は<医方集解>に記載されていますが、そのもとは<金匱要略>の「百合地黄湯」にあります。百合固金湯の「金」は「肺」という意味なので、その名の通り肺に効果がある処方です。のどが弱く咳がなかなか治らない人は、ぜひ食べてみてください。ただし、百合をきれいに洗うには、結構時間がかかりますので、気長にゆっくりとあせらずに!

 


クリニック移転のお知らせ


夏も終わり、だいぶ涼しくなってきましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

この度、当上海春澤中医クリニックは9月30日をもちまして移転することになりました。それに伴いクリニック名を変更することになりましたのでご案内させて頂きます。日本語名は変わらず「はるさわ」、中国名は「春日」に変更となります。なお、電話番号は変更ございません。
当初はお手間をおかけすることもあるかと存じますが、以降ご来院は新しい御住所までお願い致します。 これを機に、さらにサービスの向上に努めてまいりますので、これからも「はるさわクリニック」をどうぞよろしくお願い致します。

 

【診療開始日】 2019年10月8日

【新クリニック名】上海はるさわ中医クリニック(中国名:上海春日中医診所)

【新住所】 静安区新閘路831号麗都太平洋酒店9階G室(北入口)

静安区石門二路219号麗都太平洋酒店9階G室(東入口)

*駐車は東入口のみ

【電話】 021-5386-2670

【交通アクセス】

★地下鉄13号線 自然博物館駅1番出口から徒歩約5分2号線 南京西路駅2番出口から徒歩約10分1号線 漢中路駅10番出口から徒歩約10分12号線 南京西路駅14番出口から徒歩15分

★バス 41、109、927番 石門二路山海関路駅降車(東入口側)

19、36、136番新閘路石門二路駅降車(北入口側)

 

ホテルの入り口から入り、9階までおあがり下さい。入口は、北と東に2つございます。

お車でお越しの際は、東入口から駐車場へお入りください。ご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

 

ナズナ


暑い夏は体を冷やし過ぎないように


今年も長い梅雨がやっと去っていきました。続いてやってきた猛暑は、なかなか酷しいです。このような暑い時期は、昔から西瓜や糸瓜、冬瓜など、体を冷やす食べ物を多く取ってきました。また、緑豆やユリ根、蓮の葉やハッカなども、夏には欠かせない食べ物です。ただ、時代が変わって、団扇や井戸水が過去の物となり、部屋の中では冷房ががんがん効いている現代の夏に、体を冷やす食べ物はどこまで必要でしょうか。

昔の人々は、自然の気象をその眼でずっと細かく観察してきました。その中で疾病になる六種類の気象状態を発見し、それらを風、寒、暑、湿、燥、火(熱)、「六邪」と呼んでいます。この六種類の気象状態は、正常な場合「六気」と言い、万物の成長に必要な条件で、人間の体にも害はありません。ただ、この六種類の気象状況が行き過ぎ或は足りない場合、人間の体を侵し、「六気」は「六淫」或は「六邪」になります。淫は行き過ぎの意味です。体も正気が不足或は免疫力が低下した場合に病気になります。

夏の主な気は暑です。火、熱が変化したもので、主に旧暦の夏至から立秋の間に発生します。暑は陽の邪気なので、特に気を損ないます。暑くて汗をかき、汗が出過ぎると気を消耗し、津液も失ってしまいます。このため、元々気が虚弱な人は、暑い夏に休みを充分取るのが大事で、体力を保つことが、夏バテを防ぐ一番良い対策です。暑熱は陽邪ともいい、湿度も高いため、なかなか治らない陰邪の性質も持っています。高温高湿の天気で、冷房が効いた室内にいる場合、なま物、冷たい物、海鮮、漬物を食べ過ぎないようにして、夏風邪や下痢を予防しましょう。

伝統的な夏の食べ物といえば、ハッカ入りの緑豆スープ、冷やしたスイカなどがあります。 ただ、いつも冷房が効いている部屋で生活している私たちは、昔のように猛暑を受けていないので、体を冷やす物には気を付けるべきです。あまりにも体を冷やし過ぎて、陽気が足りなくなり、湿が体の中に溜まってしまうと、他の問題が出てきますので、気をつけましょう。

ナズナ


楊梅(山桃)


今年は旧正月明けから、果物屋で楊梅を見かけます。でも、地元上海の人たちはみんな、6月を過ぎ梅雨の頃にならないと、楊梅は美味しくないことを知っています。上海も梅雨入りした今、楊梅がやっと旬の季節を迎えました。楊梅の原産地は、浙江省余姚地域です。余姚の楊梅は、さほど大きくありませんが、赤みを帯びた黒紫色で、甘酸っぱく、独特な風味があります。その他の地域でも、いろいろな楊梅が栽培されていますが、余姚楊梅の味と比べると、何とも言えない違いがあり、食べてみないとなかなか説明できません。余姚の他、慈溪や寧波周辺の楊梅も美味しいです。日本の九州も楊梅栽培の歴史は長く、最近では美味しい品種が多く栽培されています。

湿気の高い梅雨の時期は、他の果物を食べると下痢になりやすいですが、楊梅だけは胃の調子を整え、下痢を止める効能があるので、少々多めに食べても大丈夫です。清《随息居饮食谱》には以下のように記述されています。「楊梅は甘酸っぱく体を温める。食べるとき少し塩を付けたほうがよし。のどの渇きを止め、活血効能があり、痰を消す。また、煩わしい気分を治める。塩や蜜に漬けるか、酒に浸けて保存する。干して、砂糖漬けにしてもよし。消化を助け、下痢を止める。大きくて甘い物がよし。ただし、食べすぎると血を動かす。特に酸っぱい物は良くない。発熱を伴う病気がある者は避けるべし。」

楊梅は外殻がないため、保存が難しく、特に水に触れるとすぐ腐ってしまいます。この梅雨は、わりと晴れた日が多いので、今年の楊梅は特に甘くて美味しいです。物流が発達したおかげで、朝採った楊梅が午後には食べられるようになりました。本当に贅沢な時代です。食べきれない楊梅は、冷蔵庫に2,3日おいても大丈夫です。3日ぐらい過ぎたら、お砂糖に漬けるかお酒に浸けるかしないと腐ってしまいます。以前、江浙あたりの人々はみんな自家製の楊梅酒を持っていました。夏になって下痢をしたときに、お酒に浸けた楊梅を食べると、腹痛や下痢を治すことができます。

ナズナ


自覚症状を重視する


漢方の診察に来られた際は、検査結果やマッサージに行った時に言われた事より、「自覚症状」を詳しく説明する方が大事です。先日、「漢方の臨床」で日本の名医・大塚先生の文章を拝読しましたが、その説明が非常に適切なので、引用させて頂きました。

「漢方では患者さんの自覚症状というものを非常に重視します。自覚症状を重視すると言うのは、自覚症状が治療に直結しているわけですね。こういう訴えをするときはこういう治療法があるということが古い時代から記されているわけで、漢方の治療法を決定するには、たとえば膀胱の中に氷が入っているようだなんていうのは大事なインフォメーションになるわけです。ですから、それを非常に真面目に取り上げてやるということなんです。

その辺が患者さんに満足がいって、それによって非常によくなることがかなりあるんです。現代医学のほうでいうと、不定愁訴症候群というような感じになると思うんですけど、そういうものがわりあい漢方の得意とする分野であるということでしょうね。」(大塚恭男論文集「東洋医学の世界」より)

ナズナ


桑の実


果物屋さんの店先には、もう桑の実が並んでいます。赤みを帯びた黒紫色の、小さな箱に入れられた桑の実は、ぱっと見ると大きめの虫のようで、人々の目を引きます。完熟の桑の実は甘酸っぱく、そしてわずかに渋みがあります。塩を少しつけると、この渋味がなくなり、独特な風味を楽しむことができます。

桑の実は、小満(5月22日前後の二十四節気のひとつ)頃の小果物です。小果物というのは、限られた短い期間しか採れない果物のことです。桑の実は保存が難しく、採ってすぐに食べないと腐ってしまいます。また、果物として食べるほか、良い薬にもなります。「随息居飲食譜」では、桑の実は甘く平穏な性質を持ち、肝と腎を補い、血液を補充するほか、口の乾きを抑える、関節を潤す、お酒の毒を消す、コリや痛みを治す、目や耳の機能を高める、精神を安定させるなどの効能があるとされています。

桑の実は、小満の前に採った黒くて甘い物が良いです。生で食べるときには、塩を少しふるとよいでしょう。また、ジュースにして飲んでも美味しいです。保存する場合には、煮詰めてドロドロのゼリー状にしたり、乾燥させたりします。不作の年には、食糧にもなります。そして、長い間継続して食べれば、白髪を防ぎます。

完熟した桑の実の汁を搾って、陶器でゼリーを作り、毎日一匙、お湯やお酒に溶かして飲むのもよい方法です。お年寄りが飲めば元気になり、足元をしっかりさせ、めまいやのぼせを治します。また、浮腫みや張り感、できものなどにも効きます。食事療法がお好きな方は、ぜひ試してみてください。

桑の木はまさに宝物です。実のほかに、葉も養蚕に用いるだけでなく、生薬になります。薬名は桑葉で、風邪薬に使われます。また、桑の枝の薬名は桑枝で、コリや痛みに効きます。根の外皮は桑白皮という薬名で、咳や喘息、浮腫みの治療に使われます。このように、すべてが役に立つ桑の木は、古くから江南地方の至る所で見られ、「満院尽栽桑,不羡桃与李(庭いっぱいに桑を植えれば、桃や李を羨むことはない)」という句も残されています。

ナズナ


梅の実


庭の梅の実がだんだんと黄色くなってきました。最近は以前のように、この季節に梅を採る人々の姿が見られなくなり、完熟した梅の実が寂しく枝から落ちています。気付かずに踏むと足が滑り、べたべたした果肉が地面に残ります。生活が豊かになったことで、梅を採る人がいなくなったとは、本当にもったいないことです。

梅は食材にも、生薬にもなります。三国演義の中に「青梅、酒を煮て、英雄を論ず」と言う物語が残されているように、中国では昔から梅の実を梅酒にして楽しんできました。また、梅干しは日本独特の保存食品です。柔らかくて塩辛く酸っぱい梅干しは、胃腸の働きを促すので、ごはんを美味しく食べることができます。日本の梅干しは、漬ける時にいっしょに紫蘇を入れるため、軽い風邪を治す効能もあります。風邪気味の時に、梅干しを入れたお湯を飲めば、大分楽になります。

梅の日本での生薬名は、中国の薬名と同じく烏梅(うばい)と言います。漢方では解熱や咳き止め、下痢止めとして使われています。中医では、烏梅は収斂薬に属しており、味は酸っぱく平穏な性質をもち、肝、脾、肺、大腸経に入ります。肺気を固め、腸の動きを調整し、津液を生み出し、回虫による腹痛や嘔吐を治します。薬の作り方の違いによるのかもしれませんが、漢方と中医では対応する症状が少し違います。しかし、いずれにせよ、梅は悠久の歴史がある食材でもあり、生薬でもありますので、これからの世代にも長く伝えていきたいと思います。

ナズナ


舌の意味③


前回お話しした年配の方は、苔が消えてピンク色の舌質が出てきました。舌質は、主に色と形を診ます。ややピンクの赤を基準にすると、ピンクで薄い色は陽の虚弱、冷えの表れ、赤くて濃い色は熱の表れです。陽の虚弱の治療は比較的容易ですが、熱の方は、本当に熱いのか(実熱)、それとも陰の虚弱(陰が足りないこと)によって相対的に熱いのか、判断するのは容易ではありません。更に、この基準は、医者それぞれの頭の中にありますので、データ化するのが難しいです。

舌の色に関して、もう一つ重要なのは、紫色、或は黒っぽい紫色かどうか、また舌全体が紫色なのか、或は局部的に紫や黒っぽい紫斑点があるのかどうかを診ることです。このような紫色、黒っぽい紫色は、いわゆる鬱血と呼ばれるものです。局部的でも全体でも黒紫があれば、早めに治療した方が良いでしょう。鬱血は腫瘍を含め、いろいろな病気発生の前兆、或は各疾病に見られる基本的な症状と言っても過言ではありません。必ずチェックしてほしいと思います。

舌の形については、歯痕があるかどうか、つまり舌の周りに波状の歯の痕があるかどうかを確認するのが基本です。歯痕があれば、気の不足で水が溜まっている証拠です。もし、舌に歯痕があって、常に疲れを感じている場合、苔が濃くなければ、白人参(高麗人参を人工栽培した安い物)や黄耆など、気を補う生薬を煎じて飲んでも良いです。飲んでいる間に、体の状況が変わって、今までにない症状が出てくる可能性もありますので、医者の指導のもとで、飲んだ方が良いでしょう。舌、苔に関しては、まだまだ多くの診方がありますので、ご興味がある方は、ぜひ春澤漢方相談室までご相談ください。

ナズナ


舌、苔の意味②


最近の若者はきれい好きで、歯を磨くときに、舌の苔も一緒に取ってしまいます。実は、舌、苔は漢方望診の一部であり、大変重要な意味があります。特に漢方を受診しようとしている方は、必ず苔を残しておくよう、お願い致します。

前回お話した年配の男性が、一週間後にまた来院しました。厚く白い苔は大部分消えて、ややピンク色の舌質が見えてきました。中医が舌を診る場合、苔と舌質を分けて診るのが一般的です。

舌を診るとき、初めに苔があるかどうかを見ます。では、苔がある場合から説明しましょう。苔の診方にはいろいろありますが、基本は苔の色と厚みを確認することです。苔の色は大きく白と黄色に分けられます。白は寒湿を表し、黄色は湿熱を表しています。白も黄色も、体内に湿があることの表れで、分かりやすく言えば体内の水分代謝がうまくいっていません。そして、苔が厚ければ厚いほど深刻です。また、色がはっきり分からず、粘ってべっとりしている苔を腻苔(じたい)と言います。白っぽいものは白腻苔、黄色っぽいものは黄腻苔と言います。ただ、多くの場合単一色ではなく、白の中に少し黄色があったり、黄色の中に白っぽいところがあったりします。この白と黄色の部分の多さによって、薬の分量を決めます。苔が白あるいは白腻苔、黄色あるいは黄腻苔の場合、どちらも寒湿、湿熱があり、胃腸の機能が完全に働いておらず、毎日取った食べ物も消化しきれていないことの表れですので、単に体を補う薬を服用することはやめましょう。

苔があっても、まだ薄く透けており、舌質の色が見えるものを薄白苔あるいは薄黄苔と言います。薄い苔は病気の初期、もしくはまだ軽い状態かもしれません。健康な人は、赤くややピンク色の舌の上に、一層の薄く透けたやや白い膜があります。逆に全く苔がなく、舌の色が鮮やかに見えているとき、中医は胃の気が体に必要な栄養を十分に取り込めていないと判断します。このような場合、病気は往々にして複雑で、治すのにも時間がかかります。正常な苔以外の方は、やはり薬で調整したほうが良いでしょう。舌質に関しては、また次回、お話します。

ナズナ


舌、苔の意味


最近の若者はきれい好きで、歯を磨くときに、舌の苔も一緒に取ってしまいます。実は、舌、苔は漢方望診の一部であり、大変重要な意味があります。特に漢方を受診しようとしている方は、必ず苔を残しておくよう、お願い致します。

先日、赤ら顔の男性が奥様と一緒に来院されました。話を聞くと三週間前に肺炎で高熱が数日続き、抗生物質の投与により熱は下がったものの、何となく調子が悪いとのことでした。

初めは発熱の後で調子が悪いだけかと思いましたが、舌を見るとびっくりする程真っ白で、苔が粘々と厚く、本来の舌の色が全然見えませんでした。こうなると最初のイメージと全く違いますので、胃腸の機能を高め、寒湿を出す薬を処方しました。傍にいる奥様によると旦那様の体を早く回復させるために、西洋人参とクコの実のお茶を毎日飲ませているとのことです。これもまた火に油を注ぐようなもの、すぐに飲ませないようにと話しました。

西洋人参は“苦、甘、涼”の性質を持っており、肺を補い、熱を冷まし、胃を調和して津液(体液)を補給します。肺の陰が足りないことによる咳、喘息、咯血、或は発熱後の陰の虚弱による咳などに効きます。クコの実は“甘、平”と柔らかな性質を持ち、肝腎を補います。クコの実は“平”な性質の薬ですが、陽よりも陰を滋養する作用がありますので、西洋人参と同様に養陰薬に属します。

漢方では「気の余りは火になり、陰の余りは湿になる」と言います。西洋人参もクコの実もとても良い薬ですが、寒湿持ちの患者さんには合いません。体に良いからと、なんでも飲んでしまうのではなく、まず飲む前に自分に合うかどうかをはっきりさせたほうが良いでしょう。薬が合うかどうかを判断するのは、なかなか難しいことですが、舌を見るのが比較的簡単だと思います。また、体質は薬を飲むことによって変化していきますので、漢方薬を飲み始めた時は、あまり長く飲み続けないほうが良いですし、服薬中も舌の状態などを確認することが必要です。さて、ここまでご覧くださった皆さん、恐らく「舌はどうやって判断するのですか」とお聞きになりたいでしょう? これはまた次回、お話しすることにしましょう。

ナズナ


鉢植えの花は去り行く冬の寒さで枯れてしまいましたが、どこから来たのでしょう、いつの間にかナズナが生い茂っています。元気なナズナを見ると、子供の頃の光景が浮かんできます。春になると、みんなでよく山菜採りに出かけました。川辺や畑のふちなどの日当たりが良い場所に、たくさんのナズナがいきいきと生長していました。遊びながらナズナを採っていると、あっという間に籠いっぱいになったものです。寒さに鍛えられた野ナズナは、特に香りが良く、栽培された物とは違います。

旬のナズナは“春の味”として皆に親しまれていますが、その料理の仕方はいろいろです。寧波の人は、ナズナと細切り肉やお餅を一緒に炒めます。また、地元上海の人は、ナズナとひき肉を一緒に包んでワンタンにします。どちらもとても美味しいです。ナズナは日本でも古くから春の七草のひとつに数えられており、正月七日に七草粥を作って食べる習慣があります。上海近辺では、旧暦の三月三日(四月初め)までに、ナズナを採って食べます。四月を過ぎて、花が咲き始めると、野菜として食べるには硬くなってしまうからです。

花が咲いているナズナは、漢方薬になります。薬用名は“ナズナ花”と言い、花、葉、茎などすべてを薬にします。ナズナ花は、“甘、涼”の性質を持ち、胃および肝の経絡に入ります。止血の効能があるので、様々な熱による出血を治療できるほか、利尿作用や体内の熱や湿気を除く効能もあるので、浮腫みや高血圧、腎炎や下痢の治療にも使われます。また目の諸症状にも効きます。このような問題がある方は、春にナズナをたくさん食べることをお勧めします。美味しくて、体にも良いなんて、最高のご馳走ですね!

春はニラを食べよう


春のニラは特に香りが良いです。新鮮なニラや黄ニラ(日を当てずに栽培したもの、くせが少なく食べやすい)を、卵や豚肉、干し豆腐の細切りなどと一緒に炒めると、おいしく食べられるだけでなく、陽気を養い、体内に残されている冬の寒さを芯から取り除くことができます。ニラは日本にも昔からある野菜で、炒めて食べるほかに、卵やご飯と一緒に煮込んで雑炊にします。私はニラ卵雑炊を食べたことがありませんが、想像しただけでも美味しそうで、一度食べてみたいです。

昔から「ニラは初春の柔らかく太いものが良い」と言われています。ニラは、“辛、甘、温熱”の性質を持ち、胃を温め腎臓を補い、気の流れを正常にして血のめぐりを整えます。主に、胸、腹、腰、膝など各部の痛みや、胸のつかえ、お産の諸症状に効くほか、打撲や蛇、犬、虫などに噛まれた時にも効果があると言われています。現代医学がなかった時代には、野菜も命を救う良薬になったのかもしれません。

ニラは野菜ですが、「多食神昏」と言われるように、あまりたくさん食べるとめまいを起こす可能性があります。恐らくニラの“温熱”な性質のせいで、食べすぎると体に熱がこもってしまうのでしょう。また、「産後、失神した場合、ニラを切って瓶に入れ、熱いお酢をかけて、その蒸気を鼻から吸い込む」、「産後の情緒不安定から肝臓を傷め、緑色の胆汁を吐いた時には、ニラの汁に少し生姜の汁を入れて飲む」など、薬としての使い方も伝えられています。その効果に関する記録は残っていませんが、長い間、伝え続けられてきたのですから、やはり効き目があるのでしょう。

正式に中薬として用いられるのはニラの種で、薬用名を韮子(キュウシ)あるいは韮菜子(キュウサイシ)と言い、補虚薬の助陽薬に属します。性質は“辛、甘、温”、肝経および腎経に入り、滋養、強壮の効能があります。韮子は、主に陽萎、遺精、尿もれや頻尿の治療に使われます。ただし、体質的にあつがりの方は「多食神昏」を起こさないよう、慎重に服用してください。

梅の花


梅の花はまだ寒さの残る二月に咲き始めます。「疏影横斜水清浅,暗香浮動月黄昏」“まだ葉の疎らな枝は清い水の流れに斜影を映し、ほのかな香りが月の昇るたそがれ時にどこからともなく漂ってくる。”これは宋時代に詠まれた有名な歌です。梅は古来より多くの歌人によって歌われ、たくさんの名歌が残されました。春を告げる美しい梅の花は、私たちを楽しませてくれるだけでなく、良い中薬にもなります。

梅はバラ科に属しており、花の薬用名は、緑萼(がく)梅、緑梅花で、乾燥させた蕾を薬として用います。味はやや酸っぱくて渋く、“平”の性質を持っています。緑色の梅の花だけではなく、白、ピンク、紅色など、芳香がある花もすべて薬になります。また、さらに香が濃厚で黄色い臘梅の花も薬になりますが、梅の花とは少し効能が違います。

薬としての梅の花は、がくが緑色で白い花が良いとされています。梅の花は肝経、胃経に入るので、肝臓の気を緩め、鬱を解消したり、熱や発疹を抑えたりするほか、食欲の減退にも効果があります。ストレスで気分が晴れない、胸が詰まる感じがする、食欲がないときなどに使われます。臘梅の花は、気の流れを穏やかにし、せきを止め、夏バテによる口やのどの渇きを癒します。

文献には、梅の花を半分開いた時に収穫し、蜂蜜で漬けたり、お茶にいれたり、蒸してからシロップにしたり、またお粥に入れたりすると記載されています。想像しただけでも、なんだかとても美しく美味しそうですね。皆様も梅の花が美しいこの季節、紅楼夢の黛玉さんのように花びらを集めて、梅の香漂う梅露やお粥を作ってみませんか?

カヤの実(榧実)


カヤの実は、昔、裕福な上海人の日常のおやつでした。その値段はカボチャやひまわりのタネよりはやや高く、小山胡桃程度でしたが、最近はなぜかさらに高くなり、十年前には普通に買えた本物のカヤの実が、今はなかなか見つかりません。カヤの実は、腎の精力を補うと言われているためか、中高年の方には好まれていますが、食べ方が面倒なので、若い人たちにはあまり人気がありません。本物のカヤの実は小さい卵形で、丸い頭にやや白っぽい目がついています。その目のあたりを指で軽く押すと、外側の殻が割れ、割れた硬い殻の砕片を使って、さらに黒い薄皮を削ると、金色の実が出てきます。その実を噛むと、とても上品な香りが口の中いっぱいに広がります。

さて、カヤの実は本当に腎の精力を補うことができるのでしょうか?古書によると、カヤの実は甘温の性質をもっており、肺を潤し、せきを止め、痰を除きます。また胃腸の調子を整え、回虫を殺し、消化を助けます。でも、温性なのであまりたくさん食べると体が熱くなりすぎ、特に熱によるせきの症状には適さないなどの記載があります。

カヤの木は高級木材として、日本の南の地方に植林されたり自生したりしています。カヤの実は榧実ともよばれ、薬用として、頻尿やおねしょの治療に使われます。おねしょといえば、子どもの頃、隣の家にいた四人の子どものうち、三番目の子だけ、いつも干しライチを食べていて、とても羨ましかったことを思い出しました。これは干しライチがカヤの実と同様に、腎精を補いおねしょに効くと言われていたからかもしれません。

カヤの実は細めで殻が薄い物が良いとされています。殻が厚い物はカヤの実ではなく、別の中薬“使君子”かもしれません。使君子の形は、カヤの実によく似ていますが、やや大きくて殻が厚く、中の実もややくすんだ黄色で、カヤの実ほどおいしくありません。使君子は回虫を殺し、疳积(幼児の胃腸病)に効くため、有名な処方集<和剤局方>中の肥児丸の主成分として使われています。使君子は多量に食べると、しゃっくりやめまいを起こすこともあるので、カヤの実を食べる時には、間違えないように注意しなければなりません。

漢方薬の木瓜


中国語の木瓜は、一般的に熱帯の果物、パパイヤを指します。漢方薬の木瓜とは、全く違うものです。漢方薬として使える木瓜は、落葉低木のバラ科木瓜属の果実で、風や湿による痛みを取る薬です。味はやや酸っぱくて、温熱な性質を持っています。肝経と脾経に入り、身体をのびやかにさせ、湿気を取り、胃の機能を整えます。また、いろいろな痛みを取るためや、他の薬と配合して嘔吐や下痢の治療にも使います。

日本の木瓜については、「薬になる植物図鑑」の中に、二種類の記述があります。一つは中国と同じバラ科木瓜属で、滋養、強壮、暑気あたりに効果があります。もう一つはバラ科かりん属で、のど飴でよく知られている“かりん”です。かりんは、痰や咳、のどの痛みを治します。

この「薬になる植物図鑑」に、中国の木瓜はかりんの果実を指すと書かれていますが、効能からみるとかりんではなく、バラ科木瓜属のものによく似ています。かりんはのど飴だけでなくお酒を作ることもでき、せき止めのほか、疲労回復、滋養にも効果があります。また、果実を砂糖で煮詰め、さらに砂糖をまぶして食べることもできます。

自然の恵み カキ


屋外冬の風が寒くて落ち葉は強い風で舞い上がります。室内にクーラーがちょっと効きすぎ春のように暖かくて、のどが渇きます。その時にカキ一個を食べたいと思いませんか。日本のかきはシャキシャキにして美味しいですが、上海ではどろとした柔らかいカキがお好みます。硬いカキに対して一般的に生渋いイメージがありますが、東京にいったら、硬いカキがこんなに美味しいと初めて知りました。日本は逆に柔らかくなったかきを捨ててしまいます。カキは美味しい果物だけではなく、漢方的な治療効果もあります。

清時代の<随息居飲食譜>にかきについて、このように記載されています。新鮮なかきは甘くて体を冷やし、肺と胃の陰を養い、特に津液(陰)が足りない、身に熱がこもっている人に適します。また、気が不足して冷えている、痰湿がつよい、かぜをひいている、胸やお腹が張っている、出産後、病後などは食べない方が良いです。特に蟹と一緒にたべないようと指摘されています。私たち子供頃はカニを食べた後は、カキをたべじゃういけないと言われていますが、ここから出ているかもしれません。日本もこうな禁忌があるでしょうか?

干しカキについて、<随息居飲食譜>に干しカキは甘くて、平穏な性能をもち、胃腸に補います。肺を潤い、下痢を止め、痔の出血などを治します。果物の絶品と推薦され、年よりも子供も良いです。干しカキ表面の白い粉は「柿霜」と呼ばれ、これは柿の精液と、肺に良い、せきや血痰、のどや口舌の病気に効きます。果実のヘタの部分は柿ていとよび、しゃっくりや咳、気があがりに効きますと書いています。柿は大好きな果物ですが、食べ過ぎないように、特に上記各条をケアし、かぜをひいたときなどは控えましょう。

漢方薬の中にきれいなお花が多くあります


漢方薬の中に、きれいなお花が多いです。この中でも一番有名なのはバラでしょう。  きれいなバラは甘い香りがして、古代ギリシアには美と愛の象徴とされました。中国では昔から漢方の薬として活用しています。同じ薔薇の植物ですが、西のバラでは中国名は「玫瑰」と「月季」と別々に名づけられ、薬としての機能も違いますが、薬用部分は同じお花のつぼみです。

バラは理気薬に属されていますが、(理気と言うのが気の流れを整えるという意味です。)やや甘くて、かすかな苦み、体を温め、肝と脾にはいります。気をスムーズに流し、血液を調和し、気持ちを和ませます。これ以外、バラに近い機能を持っているお花の薬は、代々花(日本語名不明)、緑色のうめ、黄色の蝋梅などがあります。

月季花は理血薬に属され、甘くて体を温め、肝経に入ります。血液をサラサラにして生理不順に効き、浮腫みを消しますので、婦人科の良薬なのです。同じく機能を持っているのが、アサガオなどです。また、女性の美しさをたとえの名花「立てば芍薬、座れば牡丹」とも活血化瘀の機能があります。牡丹の薬用部分は根の皮ですので、薬用名は「丹皮」と呼ばれています。芍薬は更に赤芍薬と白芍薬に分けられ、赤芍とぼたんは同じ清熱解毒薬に配属され、白芍は養血薬になります。なんだか色々と細かくて分けられてわからなくなりますよね。

以上のお話の以外にもお花として薬になれるのが、金銀花、菊の花、蓮、菫、ケイトウ、ムクゲ(木槿)などがあります。お花を楽しみながら薬用機能も見つけた先人の知恵を感服します。

冬の滋養(膏方)


毎年この季節になると中医と関係する人々は、「補」の話題に盛り上がります。「補」というのは中薬で体に足りない部分を補うという意味です。今回はこの風習に従って話題の話をしましょう。

秋に入ると摂生を重視する方たちは習慣的に、体に滋養の膏方づくりの準備を始めます。特に病院を通おう体弱い方は、友人や知り合いに尋ねて経験がある「老中医」にお願いします。また、“膏方”を飲む前に体を整えっておくことが大事です。

「膏方」を作るのは時間がかかります。一般的に10月の中旬から始め、服用は冬至から立春までです。中医理論によると、冬至から身体の陽を内に潜め、陰を固守し、体のエネルギーを蓄積する時期だと認識されています。この時期に滋養強壮剤を服用すると、栄養の吸収や蓄積をしやすく、養生だけではなく、免疫力も高めることができます。この為、民間では“冬令進補,開春打虎(冬は滋養を摂り、春に虎を狩る)”という諺があります。

「膏方」の処方は一般的な治療用処方と違って、滋養を重視します。普段あまり使えない高い珍し薬を入れます。また、味の美味しさも工夫します。はまると毎年飲みたくなります。病気の防止や虚弱の補い以上、長生きすることが丹念です。ですから、膏方はお年寄りや虚弱体質の方、慢性病の患者様、手術や急病の回復期の患者様に適しています。

皆様の体質や罹っている病気などが違いますので、膏方の処方も必ず専門中医師に処方をした方が良いのです。

お茶と中医のお話


お茶の起源は、神農様が百種類の草をなめて、中薬を定めた伝説からきているとされています。ある日神農様は、たくさんの草をなめ過ぎて中毒になっていました。お水を飲んで治めようとしたところ、茶葉が湯呑みの中にぽとりと落ちてきました。とても良い香りで、試しに飲んでみたところ、意外にも毒が消されたようで、さわやかな気分になったのです!

 ただ、《神农本草经》という古い実在の書物には、お茶に関する記録が一切ありません。戦乱で原本がなくなり、後世の名医は残った書物を頼りに作り直されたかもしれません。また、唐時代に残されている《食療本草》にもお茶に関する記録もないです。比較的信用できるのは清・王士雄によって著された《随息居饮食谱》です。王士雄は字孟英、《温熱経緯》を書かれた清時代の名医です。彼は兵乱を避けるために遠く走り、何にもできないところでこの価値が高い食事療法の本を著作しました。

お茶はやや苦みとほのかな甘みがあり、身体を少しだけ冷やす作用があります。心を安らげ、眠気を取り、熱を治め、痰を消し、肺と胃の気を整え、目をはっきりさせます。口の渇きをうるおします。…プーアールで取れるお茶は味が濃く、効能が強く、お肉を食べた後のダメージを和らげるとされます。夏風邪や下痢、発疹、初期の腹痛なども、お茶を飲めばたちどころに治まると《随息居饮食谱》には記されています。

また、宋の時代に有名な《太平惠民和剂局方》に<川芎茶调散>という方剤があります。お茶の名前がありますが、実際にお茶を薬に入れているわけではなく、川キュウなど八味の薬を入れた丸剤をお茶で飲みます。このお茶は緑茶かどうかはわかりません。ただ、この薬自体は頭痛の治療薬なので、方剤学の解釈では、お茶の苦みと冷やす性能を生かして、他の薬の温燥の性能を抑えると言われています。この為、中薬を飲むときにお茶を飲んでも良いと一つ証明ができました。ただし、それぞれの身体の相性もあります。

お茶と中医薬のお話はこれでおしまいです。今回は難しい内容でした。詳しく知りたい方はぜひ春澤までお越し下さい。

豚の皮とロバの皮で作られる生薬のお話


豚とロバは家畜という意味では同じですが、その皮を生薬にした場合価値が全く違ってきます。豚の皮から作られた「肉皮湯」というスープは、豚の皮をきれいに干して、油で揚げ、他の食材と一緒に煮込み、上海浦東三林地域の名物です。薄い黄金色のスープは香りも大変よく上品な味わいです。

一方で、阿膠(アキョウ)という生薬はロバの皮からつくられていて、豚の皮とは月とすっぽんの差と言えるほど価値が高いものです。阿膠(アキョウ)はロバの皮から作られているため、驢皮膠(ロヒキョウ)とも呼ばれます。豚の皮もロバの皮もどちらも効能がよく、生薬として二千年以上の歴史があります。

豚の皮とロバの皮についての文献は、『傷寒論』の第六券に記されています。

ロバの皮で作られた(アキョウ)は303条、黄連アキョウ湯として記載されています。「少阴病,得之二三日以上,心中烦,不得卧,黄连阿膠汤主之」

豚の皮については、310条「少阴病,下利,咽痛,胸满,心烦,猪膚汤主之。」と記載されています。

いずれにしてもイライラする症状に良く効きそうです。では医圣として認められる張仲景さえも納得する、このロバの皮と豚の皮はいったいどのような効能があるのでしょうか?

清の名医王孟英の『温熱経緯』によると「猪膚湯(豚の皮で作られた薬)は少陰(ここは腎臓のことを示す)の乾燥を潤すことができ、黒ロバを用いても同じ効能が得られる」と書かれています。ということは豚皮もロバ皮も陰の血を養い、乾燥を潤す効能があるといえます。

そのため、一般的に豚足スープは肌に良いされます。ただし、もし体に冷えがあり、陽の気が足りない方は、体に温める食材も一緒に入れることをおすすめします。また、舌の上苔が厚い場合は飲まない方がよいとされます。

夏バテと夏かぜ


医食同源の中国では、扇子、井戸水と涼茶(夏に飲まれる一般的な甘いお茶)が、記憶の中にある古き良き中国の夏です。その時代はほとんどの家庭でクーラーなどはなく、裕福な家庭に扇風機が一台ある程度でした。つらい暑さを避けるため、風通しがよく、日の当らない場所へ行ったものでした。扇子で扇ぎ、流れる汗をタオルで拭き、井戸水に浸けておいた冷たいスイカが、暑い夏の至福のときでした。しかし、これは子どもたちだけの特権でした。

 仕事をしている工員さんや農民さんたちは、やはりこのようなことはできません。太陽の真下で働き、温度の高い工場現場で働き、家の主婦やおじいちゃん、おばあちゃんたちはいくら暑くても家事をしたり、子どもたちの面倒をみます。そんなときに、緑豆湯(グリーン豆スープ。夏に使われる食材の代表の緑豆を煮て甘く味をつけたスープ)は、夏バテ防止の必需品となります。

 緑豆は古くから夏バテ防止の良薬で、甘みがあり、身体を涼しくさせます。中医的な効能は、胃腸、心に入っていく薬で、熱を冷まし、解毒とされ、これらの効能が夏バテ防止によいとされています。他にも、お肌の吹き出もの、脹れ、膿瘍(のうよう。化膿性の炎症)によいとされています。今では各ご家庭にエアコンがあり、地下鉄やお店に入ると寒いと感じるくらいクーラーが効いています。そのため、夏バテよりもむしろ夏風邪の発病率のほうが高いくらいです。実は夏風邪を引いているときは、風邪を外に出す薬が必要です。そのため、緑豆のスープは飲まない方がよいとされます。緑豆のスープをいただくときは、風邪をひいていなくても、自分の体に熱があるかどうかを確認してから飲んだ方がよいでしょう。

日数と効果とオーダーメイド


「もっと長い日数で漢方薬を出してもらえないのでしょうか?」
「漢方薬は、効果が出るのに時間がかかるのでしょうか?」
「漢方薬はずっと飲まないと効かないですか?」
このような質問を時々受けています。

漢方薬の処方はオーダーメイドなので、患者様の症状や病歴などを聞き、舌を見て、脈を取り、諸々の情報を合わせて分析し、一枚の処方になります。飲んでいる内に体の調子が変わっていきますので、薬も合わせなければなりません。例えば、冷え症の場合は薬で温めていくと熱くなったり、汗が多くなったり、元々下痢の場合には、便が出にくくなったりなど、色々なパターンがあります。また、大部分の植物の薬草も毒があるからこそ薬になるので、既に治っている場合、飲み続けてはいけません。

一方、風や熱、湿や乾燥などは邪魔の「邪」なので、体から排出させるのが基本です。体に必要な気・血・水は、足りないとすぐに補充しなければなりません。只、「先に排出するのか?補充するのか?」は、症状や舌・脈などを診て決めていきます。この為、服薬の日数も個々に違ってきます。これを間違うと、元の病気が治っても、違う病気が出てくる可能性があります。特にかぜの場合、薬を長く飲むと問題が多いです。

漢方薬中の「コーディネイト」


女性にとって、毎年のファッショントレンドや美容メイクは多少気になるところでしょう。多くの女性は、ファッション雑誌やネットファッションブログが推薦するデザインを参考に装います。しかし、雑誌モデルはしょせん雑誌モデルであり、体型はみんなそれぞれ異なります。完全に真似をするのは、かえって逆効果にもなりかねません。服装の組み合わせだけでなく、実は、私達の生活の中で最も「組み合わせ」を重視するものがあります。それは、中医の漢方薬処方の配合です。配合が良ければ素晴らしい効果を生みますが、悪ければ効果が出ないどころか、情況は更に悪化してしまうでしょう。

以前鍼灸で鼻炎を治療したWさんは、これまで夏になると、この時期よく顔を見せる緑豆百合スープや百合蓮子スープをほぼ毎日食べていました。前回漢方に懸って以来、Wさんにお医者さんは「あなたの体質は冷え症で、たとえ真夏でもこれらのスープはあなたに合っていません。これまでのように食べたら、冷え性の上に冷えを重ねてしまい、胃腸を壊し、下あごに吹き出物ができてしまいます。もし食べるならば、リュウガンのような熱を持つ食べ物で中和して食べたほうが良いでしょう。しかし、体質を改善したいのならば、漢方薬の力を借りて養生する必要があります。1~2種類の生薬の漢方薬では何の効果も得られません。薬草の薬性によって、薬草と薬草は総合的に配合される必要があるので、“温熱性の漢方薬の中に寒涼性の薬草を含めたり、寒涼性の漢方薬の中に温熱性の薬草を含める”ことで、はじめて漢方薬はバランスを保つことができるのです」と説明しました。

ですから、漢方薬中の薬草の「組み合わせ」というものは、1枚の簡単なスカートやTシャツで出来上がる夏の装いのようなものではありません。個人の体質やさまざまな角度から組み合わせ及び調整をする必要があります。この時、どのようにして良い「コーディネイタ―」を選ぶかは、特に重要です。

お刺身・お寿司の名脇役


お刺身・お寿司によく生姜等が付いてくるのを見かけますが、それらにはどのような役割があるのでしょうか?
①生姜(ガリ)
生魚や蟹で冷えた身体を温め、食中毒を予防する生姜は名脇役です。また、胃腸の機能を高め、吐き気を治し、魚のくさみも取り除いてくれます。お寿司屋さん等にとっては、なくてはならない存在でしょう。
②紫蘇
紫蘇も食中毒を防止します。この「紫蘇」という漢字の由来も「漢の時代、蟹を食べ過ぎて食中毒で死にかけた若者を、紫色の葉っぱを煎じて蘇らせた」という伝説があります。
③山葵:殺菌作用があり、魚の生臭さを消し、食欲を増進させる作用があります。
昔のように冷蔵技術が無かった時代は,生ものの扱いは勿論、毒消しについても慎重に考えられてきたのでしょう。技術の発達により、新鮮で安全性の高い生魚が食べられるようになりましたが、暑くなってくるこの季節、漢方の力を使って、美味しく安全にお刺身やお寿司をいただきましょう。

治療とトレーニング


腰痛の方が、インターネット等の記事を見て、治療のために腹筋や背筋のトレーニングをしたが痛みが取れず、当院に来られることがあります。
トレーニングの根本の考え方は、「筋肉をどうやって増やすか」です。それに対して、治療は「症状をどうやって取り去るか」を考えます。トレーニングはゼロをプラスに、治療はマイナスをゼロにすることを考えています。
腰が痛いのですから、「弱い筋肉を鍛えて強くする」という発想は間違っていないように思われますが、まずはマイナスをゼロにする必要があります。治療でマイナスをゼロに戻した後、つまり良くなった後に、鍛えるのは何の問題もありません。
「身体に痛みがある時、身体の状態はマイナス」ということが分かれば、先に治療を行い、その後にトレーニングを行うことが見えてきます。怪我や疾病の程度にもよりますが、痛みが消えた後も暫くの間は、トレーニングを控えたほうが賢明だと思われます。
「腰痛の発生原因」のご説明をしている時に、時折「何か運動をしたほうが良いでしょうか?」と尋ねられます。何かやりたい気持ちは分かりますが、どこか痛い時は身体が安静を求めています。安静も身体の治療の一つなのです。

「湿熱」って何?


多くの患者さんは診察を受けている時、往々にして「どこの調子が悪いのか」を言わずに、「私が湿熱と言われている」と医師に言います。患者さんに「どうして身体に湿気が籠っていると思うのですか?」と尋ねると、回答はいつも「マッサージ店で言われた、自分でも分からない」と、まいりました。中医の診察では、4つの診断法を行い、一つの診断法に偏ることなく、病人を全面的に診ることを重視しています。この4つの診断法の中で重要な1つが「問診」です。「問診」とは何でしょうか?「十問歌」に「①悪寒・冷えがあるかどうか?熱があるかどうか?②汗がかくかどうか?どこに出やすいなのか③頭・手足・体の状態はどうか?④大小便はどうか?⑤飲食についてはどうか?⑥胸とお腹の状態はどうか?⑦聴覚、耳鳴りあるかなどの状態⑧口の渇きの確認、⑨既往症はどうか?⑩疾病誘発の原因は何か?薬を飲んでいるか?飲んで変化があるかどうか?女性にはとりわけ必ず月経の期間や周期・閉経・不正出血などを聞く必要があります(実はこの後、子供の天然痘と麻疹を問う一文が続くのですが、今はワクチン接種されていますので、もはや質問する必要はないでしょう)」とはっきり述べられています。ですから中医の診察を受ける時は、必ず自分の情況を医師に伝えるようにしなければなりません。
では、いったい「湿熱」とは何なのでしょうか?台湾の陳旺盛医師の説明が比較的分かりやすいです。
「火気大」は、身体の機能が過度に旺盛な一種の表現と言えます。「火気大」がこじれ、更にエネルギーを燃焼した結果、身体の熱は比較的弱くなり、転じて微熱が生じるようになります。中医では「陰虚」と言います。「陰虚」がさらにこじれると身体の働きはますます低下します。中医の「気虚」に似ています。
以上の過程で、廃棄物である「湿」が生じます。すなわち身体が、水で濡れたタオルのようになります。そして頭が重い・息苦しさ・膨満感・食欲不振・軟便が現れます。「湿証」がこじれますと「水腫」になります。まさに絞れば水が出るタオルのようなものです。水の濃度が少し高くなると、中医で言うところの「飲」(例えば「胸膜炎」で、濃度は水より高いです)になります。「飲」の濃度が更に高くなると、中医では「痰」と呼ばれます。
このようにお話すればご理解いただけますでしょうか。「湿熱」には1つ重要な症状があります。それは舌の苔が黄色くネバネバしていることです。今後、もし誰かに「あなたは湿気(又は湿熱)が溜まっている」と言われたら、先ず鏡で御自分の舌を見てみましょう。

小さなツボに大きな力


春は暖かく花が咲き、桜の花は鮮やかで、遠足やピクニックには最適な季節です。美しい春の光を受けると同時に...って、あれ?クシャミが止まらない...鼻は痒いし鼻水も出てくる...これって一体どういうこと?風邪??春のアレルギー性鼻炎??花粉症??かなり辛い(涙)。  
ついこの間、Wさんはこのような悩みに遭遇しました。朝起き抜けの突然のクシャミと鼻水。最初は「風邪かな?」と思いましたが、風邪薬を飲んでもさっぱりよくなりません。クシャミが止まらないため、「ティッシュ君」が常に彼女の傍でスタンバイしていました。OLのWさんには、すでに仕事に影響が出ていました。例えば、「電話時のクシャミの大暴れ」や「接客時の洪水のような鼻水」などです。どうしよう?まったく仕事になりません。色々な方法を試してみましたが、最後、漢方薬に一縷の望みをかけました。
それから、普段よく行っている春澤クリニックへ行きました。お医者さんはWさんに「漢方薬治療はある程度の時間が必要です。すぐに鼻水を止めたいのならば鍼灸治療を試してみたら?少なくとも今、楽になりますよ」と言いました。そして鍼灸治療の後、すごく不思議なことが起こりました。お医者さんが両手両足にたった6本鍼をしただけで、鼻水が一瞬のうちに止まってしまったのです。このあと、十数時間、クシャミや鼻水が出ることはありませんでした。「こんな小さなツボ達に、こんなすごい力があるだなんて...」Wさんは思ったそうです。

私は何を食べたら良いでしょう?


生活水準が上がるに従って、余裕がある人々は、生活の質にこだわるようになる傾向です。年長者や身体の弱い方々は特に養生に関してケアをしています。ネットや微信等の各種養生の情報が多過ぎて惑わされています。多くの方々から「食事上で何に気を付ければ良いですか?」または「何を食べれば良いですか?」としばしば聞かれます。これは私にとって大変難しい質問です。なぜかと言うと、みなさん個々の体質は違うので、一言ではなかなかうまく説明できないためです。一つ例を挙げてみましょう。芹菜(中国セロリ)は、降圧作用がありますが、性味は寒涼で身体を冷やします。胃腸が丈夫な高血圧の方が芹菜を多めに食べたならば、芹菜は血圧を下げるのに補助的に働きますが、胃腸が冷えて消化が弱く下痢をしやすい方には、あまり向いていません。
「医食同源」・「薬食同源」という言葉がありますが、これは「体調がすぐれない時に、薬を使う前に先ず食べ物で調整してみる」という事です。薬と食べ物の違いは「薬は毒があり、食べ物は毒がない」です。但し、これができるのは、余程賢明な“上医”にしかできません。
食べ物の中でお米以外は、どんなに美味しい物でも毎日食べるのは辛いです。薬に使える食べ物をたまに食べる分には身体に良いとしても、薬として使う場合は、毎日決まった時間・決まった量を食べることになるので、身体の状態に合わなかったら、食べ物でも毒のようになります。この意味で、食べ物のお勧めには、体質・症状をしっかり把握しなければなりません。そのため「私は何を食べれば良いでしょうか?」という質問に、すぐにはお答えできないのです。食事療法は、医師または栄養士の指導のもとで行いましょう。

休み明けの疲れが取れない ・・・ どうしましょう? ——Y様の声を聞いてみましょう


休み明けで仕事をしなければいけないのに、なぜか旅疲れ・食べ疲れ・寝過ぎ疲れなどが一気に出てきたような感じはありませんか?特に病気でもなく、何となく無気力で、集中できない。頭がボーっとして、あっちこっち痛い・・・そんな時には、やっぱり漢方と鍼ですね。ご参考までに、ある女性患者Y様の声を聞きいてましょう!
こんにちは。
鍼灸治療、良く効きました。バカンス途中から痛かった膝がすっかり良くなりました。どこに行っても治らず、「もしやこのままでは・・・」と不安になっていた時でしたので、本当に嬉しく思います。膝の治療後、肩凝りや腰痛も無くなり、その効果のほどに、自分でもビックリしています。これは、漢方薬のおかげもあると思います。一概に漢方薬と言っても、日本の薬局で市販されているものとは違い、先ず問診をして頂いて、体質に合った処方をして頂くので効くのでしょうね。
また、膝の治療と同時に、顔に鍼をして頂きましたが(いわゆる美容鍼ですね)、顔の肌がツヤツヤになっていくのを実感しています。
体調を整えて頂けたことで、春節後の仕事にもすっきり入れました。
本当にありがとうございました。
春節休み疲れが出た方は、ぜひご相談ください。

洗剤を使わなくても良い食事


以前、食後の皿洗いをしていて気がつくことがありました。習慣で食器用洗剤を使っていましたが、母親の使ったお皿は洗剤を使わなくても汚れが落ちるということでした。母親に聞くと、食事に対して一大決心をしたそうです。醤油・塩・油はほとんど使わないとのこと。高血圧・高中性脂肪・高悪玉コレステロール持ちの母親が、「血圧・中性脂肪・悪玉コレステロール共に正常値になった」と言っていました。
「*一汁一菜」は日本における食事献立の構成の一つでした。もともとは、おかずが一品しかない「質素な食事(粗食)」の意味で用いられた言葉でした。しかし、食生活の欧米化・食べ過ぎ(栄養過多)・肥満傾向などの「飽食」が健康を害しているという事実が明らかになった近年では、むしろ良い意味の言葉に変化しました。
上海に住んでいると、どうしても脂っこい物や味の濃い物をたくさん食べてしまいがちですし、元旦や春節の前後になると宴会などが増えると思います。たまには「洗剤を使わなくても良い食事」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
*①主食:玄米など
②汁物:味噌汁など
③おかず(惣菜)一品
④漬け物(香の物)
以上4種類をセットにしたもの

お米は最高の滋養薬


千百年来、お米は江南人の聡明さと利発を養ってきました。お米は南方人のDNAにしっかりと根付いています。故郷を遠く離れても、一杯の白粥と数粒の落花生や漬け物・乳腐(*1)があれば、故郷に戻ったようです。生まれたばかりの赤ちゃんが母乳を飲まなくても、米湯粥鬻(*2)を食べれば、しっかりと成長することができます。山海の珍味は美味しいですが、毎日食べれば食べる気がしなくなります。しかし白いご飯は食べ飽きません。
 歴代の偉大な医者は、お米で胃腸を養う霊薬を作りました。特に有名なのは、「傷寒論」にある白虎湯と「金匮要略」にある附子粳米湯です。中医では脾胃を土と例え、気血を作る源としています。病気の時、胃腸を保護するのは、中医の一番重要な役割です。「白虎湯」は主に外感高熱を治療しますが、大量の石膏で熱を取り除き、お米を加えることで冷えによる胃の不調を防ぎます。「附子粳米湯」は大辛・大熱の性質を持った附子で身体の寒を取り除き、お米でもって胃腸を守ります。お米を薬に入れるのは古人の智恵です。
 しかし、いつから始まったのか分かりませんが、低糖ダイエットや雑穀をお米の代わりに食べる流行が起こり、新し物好きな人達がお米を食べなくなりました。問診で、雑穀によって胃を壊してしまったお年寄りのおばあちゃんに出くわしただけでなく、お米を食べないために体を壊してしまったお嬢さんもいました。問診時に皆さん「ふだん何か体に良い物はないでしょうか?」と良く聞かれます。そんな時、私は「お米が一番良いですよ」と答えるしかありません。健康に気を使う方々は必ず白いご飯をなくさないようにしましょう!
(*1)豆腐を発酵させ塩漬けにした食品。
(*2)水分を多くして炊いた粥の上澄み液。重湯。
お粥を作る時、日本ではすでに炊き上がった白いご飯を煮ますが、中国では生のお米から炊きますので、出来上がったお粥が濃厚でねばねばです。

薬食同源:当帰生姜羊肉湯季節グルメのご紹介


元旦が過ぎ、上海は一番寒い季節を迎えました。「今年は膏方を処方していませんが、何か他に滋養に良い方法はないでしょうか?」と多くの人から聞かれています。中医の奥は深いので、当然その方法もたくさんあります。しかし、重ねて申し上げますが、冬の滋養は人によって異なります。全ての人が同じような物を摂り入れて良いわけではありません。これらの事は、皆さん既に知っていることと思いますので、説明はいたしません。今日は皆さんに滋養が摂れる季節のグルメ、「当帰生姜羊肉湯」をご紹介致します。
当帰生姜羊肉湯に使われている材料はごく普通の食べ物です。しかしその出典は普通ではありません。医聖・張仲景の「金匮要略」の「腹满寒疝宿食病脉证治第十」にあり、「お腹の膨満感・腹痛・悪寒・あくび・くしゃみ・鼻水を主に治療する」とあります。ここまで読んだ皆さま、ゆめゆめ慌てて羊肉を買いに走って調理してはなりません。必ず、下記をお読みになってから判断してください。判断を誤って食べてしまって、発熱・発疹等の問題を引き起こさないようにしてください。
「腹满寒疝宿食病脉证治第十」は14の処方があり、当帰生姜羊肉湯は第9枚目の処方です。原文では「寒疝腹中痛、及脇痛里急者、当帰生姜羊肉湯主之(冷えてお腹が痛む時、脇が痛んで腹部が引き攣れる時、当帰生姜羊肉湯が適切)」とあります。 「当帰生姜羊肉湯は当帰三両・生姜五両・羊肉一斤からなる」と記されていますが、この単位は漢時代の単位です。近代の章太炎先生が漢五铢銭でもって考証したところ、一両は今の約三銭に相当し、大体9グラムくらいです。当然これは、治療用の分量ですので、ふだんの滋養の場合には、御自分の好みに応じて減らしても構いません。
羊肉と生姜はどちらも温熱の食材ですので、寒がりな人・手足が冷える人・下腹がしくしく痛み、お腹を温めたり押されると気持ち良い人に向いています。逆に、ふだん暑がりで汗が多い人・お腹が痛く、押されるのが嫌な人・口が渇いて冷たい物を飲みたい人には向いていません。体質の寒温が分からない人は、漢方専門医に判断を仰いでください。

「後ろ向き」と「前向き」


知り合いが入院すれば、お見舞いに行きたくなるのが人情です。
私が膝蓋骨骨折で入院した時のことです。知人達に「具合はどう?」「どこに入院しているの?」としつこく聞かれました。しかし、入院中は髪の毛はボサボサですし、時には痛みを堪えて笑顔も作れません。また、お風呂も入れませんでしたから、「出来れば他人に会いたくない」というのが本音でした。結局、ほとんどのお見舞いをお断りしてしまいました。物事に対して、正面から向き合えない自分がそこにいました。
かって、NHK交響楽団指揮者の岩田宏之さんという方がいらっしゃいました。岩田さんは職業病である頸椎後靭帯骨化症を患いながらも、首にコルセットを装着しながら指揮棒を振りました。その後、続けざまに胃がん・喉頭腫瘍・肺がんと病魔に襲われても、その度に復活し、指揮を披露しました。
ある時、楽団員が「先生、これだけのお病気をされて大変ですね」と言うと、岩田さんは「病気?だからどうした!」とのみ仰ったそうです。
全ての人がそのような生き方ができるわけではありませんが、過去にこのような方がいらしたというのは、とても励みになり、私も見習うべきと感じました。

年末年始


12月もすでに後半になり、もうすぐクリスマスです。天気予報では毎日寒波の予報ばかりですが、外に出ると暖かい日差しが気持ち良いです。旧暦10月ですから“小春日和”と呼ばれる時期でしょう。上海ではクリスマスが過ぎ、元旦以後一番寒くなり、厳しい寒さの中で新年を迎えます。
昔暖房がない頃、冬になると厚い綿入りの“棉袄”(上着)や“棉裤”(ズボン)を着ていました。それでも、座ってあまり動かないお年寄りや虚弱体質の方々には、湿気のある寒い冬を過ごすのは大変でした。南方の裕福な家庭には、煎じた漢方を更に濃くした「膏方」と呼ばれるゼリーみたいなものを服用し身体を温める伝統があり、今でも続いています。良い膏方は体を温め虚弱を補うだけではなく、味も美味しいです。膏方の処方箋も、竹筆のきれいな字で書かれ、それ自体とても値打ちのある物です。そうでなければ、誰が苦くて渋い物に大金を払うでしょうか。衣食は満ち溢れていても活力が不足している今、以前の様々な伝統はますます形式が残るのみとなっています。
年末年始は宴会が多いですが、飲食・飲酒の節度には注意が必要です。ありきたりな事ですが、あえてお話し致します。人生には避けられない事が多いですが、事前に準備をし、終わったらすぐさま穴を埋めるのも必要でしょう。この辺は、中医を生かした多くの方法があります。

年末のご挨拶に代えて


またたく間に11月末になり、年末がまたやって来ました。「冬は膏方で滋養を」という宣伝が多過ぎて、少々うんざり気味です。この季節の空はどんよりしていて、夏の間あんなに鬱陶しかった太陽の光を恋しく思います。最近、日中両国のリーダーが新しい日中友好を再開したニュースをみて、懸け橋の砂礫である私たちは幾ばくかの慰めを感じました。日系車の破壊から爆買い・東芝買収に到るまで、これはただ10数年間の出来事です。
先日の食卓で、両国の人の性格という話題になって、褒める言葉も貶す言葉もあり盛り上がりました。日本語の「真面目」は何となく褒める言葉に聞こえますが、「融通が利かない」という貶す意味も含まれています。一方、中国語の「臨機応変」は褒める言葉に良く使われますが、貶す場合は「いい加減」となります。「真面目―融通が利かない」と「臨機応変―いい加減」は、まるで言葉の裏表のようで、陰陽両極の感覚を思い出されます。「黄帝内経」では「陰陽離決、精気乃絶(陰陽が離れると精気は無くなってしまう、滅亡の意味です)」とあります。どんな事でも極端に到ってはいけません。極端さは引き裂いてしまいます。双方を引き裂くことは、お互いに痛みを感じる結果になります。陰陽学の勉強は、中医学の最初にあるカリキュラムです。陰陽対立*1・陰陽互根*2・陰陽消長*3・陰陽転化*4などの「陰陽」について学びます。簡単に言ってしまうと、「陰と陽は一つの物の両面であり、陰の中に陽があり、陽の中に陰があり、陰陽のバランスが保たれていることが大切」ということです。養生や健康も同様で、過度は良くありません。ご飯を食べるのが人間の生きるベースです。食事が正しく摂れていれば、薬を飲む必要もなくなります。
皆様の来年のご健康と、きちんとご飯を食べて、お薬を飲まないで済むような1年になることを、心からお祈り致します。
*1:「陰陽は対立・制約し合う関係にある」の意。
*2:「陰が無ければ陽が存在しないと言うように、お互いに依存している関係」の意。
*3:「陰陽の対立・制約や依存は、静止状態でなく、常に変化している」の意。
*4:「陰陽は、一定の条件下で陰は陽に、陽は陰に転化する」の意。

自覚症状を重視する


漢方の診察に来られた際は、検査結果やマッサージに行った時に言われた事より、「自覚症状」を詳しく説明する方が大事です。先日、「漢方の臨床」で日本の名医・大塚先生の文章を拝読しましたが、その説明が非常に適切なので、引用させて頂きました。
「漢方では患者さんの自覚症状というものを非常に重視します。自覚症状を重視すると言うのは、自覚症状が治療に直結しているわけですね。こういう訴えをするときはこういう治療法があるということが古い時代から記されているわけで、漢方の治療法を決定するには、たとえば膀胱の中に氷が入っているようだなんていうのは大事なインフォメーションになるわけです。ですから、それを非常に真面目に取り上げてやるということなんです。
その辺が患者さんに満足がいって、それによって非常によくなることがかなりあるんです。現代医学のほうでいうと、不定愁訴症候群というような感じになると思うんですけど、そういうものがわりあい漢方の得意とする分野であるということでしょうね。」(大塚恭男論文集「東洋医学の世界」より)

身体は生命の「借家」


「身体は自分の物で、どんなふうに使ってもいい」という考え方ですと、必ずいつか壊れます。しかし、もし自分の身体を生命の「借家」と想定すると、無茶な使い方はしないと思います。返却しなければならないからです。
そして、「家」には定期的なメンテナンスが必要です。もちろん、メンテナンスをしているからといって、家が新築になるわけではありません。しかし、メンテナンスを重ねるうちに、メンテナンスをしていない周りの家が老朽化していくので、「自分の家はメンテナンスのおかげで良い状態を保っている」と相対的に分かります。
不健康な人は、「朝起きて腰が痛い・ご飯を食べて胃が痛い・歩いて足や膝が痛い・座りっぱなしで腰が痛い・テレビを見て頭痛がする・夜は眠れない」と1日中身体のことを考えています。しかし、健康な人は、朝起きてから夜寝るまで、あまり身体のことを感じません。不健康な人を見て、「自分は健康」と意識することでしょう。
身体は生命の「借家」であり、大切に扱い、問題があればすぐにメンテナンスしなければならないことを忘れないでください。そうすれば、この「借家」は雨風をしのぎ、生命をより充実させてくれるでしょう。

「本人の気持ち」と「身体の声」


身体の中には2人いると感じます。二重人格等ではありません。一人は「本人の気持ち」で、もう一人は「身体の声」です。
例えば、接待等で大酒を飲んだ後、私たちは「身体をすぐに回復させたい」と思います。しかし、それは「本人の気持ち」であって、「身体の声」ではありません。「身体の声」は「こんだけ負担をかけたのだから、少しは労わってくれよ」です。しかし「本人の気持ち」は「仕事も忙しいし、出張や会議もある。そんなにゆっくりなんてしてられない」で、双方譲らずです。
少し無理をしても辛くなければ回復したと感じがちですが、「身体の声」は非常に正確に受けた負担を覚えています。そして「身体の声」を毎回無視していると、しっぺ返しを受けます。痛みを出したり、やる気をなくさせたり、内臓の機能を低下させたり、ありとあらゆる手段を使って自己主張を始めます。「本人の気持ち」の一番きついところに、「身体の声」が納得するまで文句を言い続けます。
「本人の気持ち」は大切ですが、それだけでは健康になれません。
身体の内なる声に耳を傾け、「身体の声」を満足させてあげることが大切です。

秋は下痢しやすい


天気がだんだんと涼しくなり、気持ちの良い気候になってきているにもかかわらず、最近下痢で悩んでいる方も少なくないです。漢方を多少分かっている方は「湿が多いと下痢しやすいのは理解できるけど、乾燥している秋にどうして下痢?」とお思いでしょう。今回は、このことについてお話したいと思います。
確かに季節は白露(注1)になり、長夏(注2)の蒸し暑さは大分消えていますが、今年の夏は例年より温度が高かったです。暑さは最も「気(生命エネルギー、元気や気力の気)」を損ない易いです。肺の「気」が虚弱になると風邪に罹りやすく、朝のくしゃみやノドのいがいがの咳がやたら出ます。胃腸の「気」が弱っていると下痢し易くなります。夏の終わりは雨天も多かったので、湿度が高いです。近頃では、冷たい空気が南下してきて、肌寒さが増してきました。中医では、湿という邪気はネバネバで、なかなか取り除けず、熱に遇うと湿熱になり、寒に遭うと寒湿になります。この2種類の湿はどちらも下痢になる原因です。明確な判断は下痢以外の症状や舌・苔・脈と合わせなければなりません。
下痢になったら原因を問わず、生・冷・脂っぽい食べ物を避けなればなりません。生・冷は生野菜・果物も含みます。また、中華のデザートに良く出てくる緑豆スープやユリの根スープ等の漢方的に冷たい性質を持つ料理、アイスクリームなど冷たい物、海鮮や川の魚介類など体を冷やす食べ物もそれに当たります。脂っぽい物は割と解かりやすいので、ここでは省略します。下痢をしている時に、一番良い食べ物はお粥でしょう(お米は胃腸を良くする古来漢方の生薬です)。山芋を細かく切ってゆっくり煮込むと、美味しい「山芋粥」が出来上がります。「山芋粥」は近代中医第一人者と呼ばれる張錫純先生のお勧めの品です。彼は一味薯蓣飲という漢方の薬を作成し、ただ山芋一味のみで、無数の患者を救いました。この薬で、三か月下痢が治らなかった三十代の婦人を治癒したことが、彼の著作に記載されています。この為、胃腸が弱い方、特に下痢をしやすい方にはお粥や山芋お粥がお勧めです。
注1:2017年は、9月7日~9月22日にあたります。
注2:2017年は、7月7日~8月6日にあたります。

病は気から


ストレスで胃腸の病気や突然死を招くメカニズムを、北海道大の村上正晃教授(免疫学)のチームが解明し、15日付のオンライン科学誌イーライフで発表した。ストレスで起こる脳内の炎症が関わっていた。「病は気から」の仕組みが裏づけられたといい、ストレス性の病気の予防や診断への応用が期待される。
チームは、睡眠不足など慢性的なストレスをマウスに与えた。そのマウスのうち、自分の神経細胞を攻撃してしまう免疫細胞を血管に入れたマウスの約7割が、1週間ほどで突然死した。一方、ストレスを与えただけのマウスや、免疫細胞を入れただけのマウスは死ななかった。
突然死したマウスを調べたところ、脳にある特定の血管部分にわずかな炎症があることを発見。炎症はこの免疫細胞によって引き起こされ、通常はない神経回路ができて胃腸や心臓に不調をもたらしていたことがわかった。
村上教授は「同じストレスを受けても、この免疫細胞の量や脳内の炎症の有無によって、病気になるかどうかが分かれると考えられる」と話している。

睡眠のすすめ


8月23日は「処暑」です。処暑の「処」は、「身を隠し、終える」という意味があり、暑い天気が間もなく終わることを表しています。この頃、多くの人々は身体のダルさを覚え、朝なかなか起きられないことが多く、昼間の仕事もつらくなりがちです。これら、いわゆる「秋バテ」には、十分な睡眠をとることが重要です。
中医では、「自然界は陰陽の増減の中に置かれ、それは昼夜の交替で現れる」とされています。昼は陽であり、夜は陰です。体内の陰陽の気も、この増減に伴って変化します。「目が覚める」と「眠る」の交替です。目が覚めることは陽に属し、眠ることは陰に属します。「日が昇ったら働き、日が沈めば休む」というのはここからです。
処暑の節気は、暑い季節から涼しい季節へと移り変わりの時です。そして、寒暖の変化と共に、陰陽及び昼夜の時間も変化します。もちろん睡眠に要する時間も盛夏の頃と比べて徐々に長くなります。
理想的には「夜10時前に就寝し、睡眠時間を1時間程度増やすと良い」とされています。しかし忙しい現代において「夜10時に寝るなんてムリ」とおしゃる方には、昼寝の時間(正午の頃に15分~30分くらい)をとるのも1つの方法です。
自然に合わせた養生をして、健康的な生活を送りましょう。

心のかぜ


ますます暑くなる天気に、気持ちもイライラしがちです。インターネット時代の今現在、私たちの周りには、情報が溢れ、変化も激しく、のんびりと過ごすのは贅沢となっています。移り変わりの早い周りを見て、「自分も早くしないと遅れるのではないか?」と何とも言えない不安・イライラ・焦燥感が募っていきます。これは、すでに心の病に罹っている症状で、別名「心のかぜ」と呼ばれています。
普通の風邪なら、薬を飲み、水を飲んで休めば、すぐに治ります。「心のかぜ」も普通の風邪同様、早めに治療することが大切です。鬱傾向・軽い鬱から精神疾患へ進ませないことが肝要です。
たとえば会社で問題があると、その悩みによる不眠が原因で、昼間の集中力が減退し、失敗が更に多くなったりします。この時、風邪を治すのと同じように思い切って休み、自己調整を行い、状態を元に戻すのが一番です。しかし、挫折感・悔み・腹立たしさに加え、上司からの叱責などから、休まず無理にこらえたりすると、「失敗→悩む→失敗→悩む・・・」の悪循環に陥ります。単なる情緒不安定レベルから自責・憂鬱へと進み、最悪の自殺の念にまで至りかねません。
うつ病になりやすい人は、往々にして完璧主義で、集中力があり、正義感や責任感に富んでいますので、家族や友達の助けが必要です。
また、漢方も、心身の安定・情緒調節に有効です。その治療方法は多く、治療効果も確かです。

夏は「湿」を取り除きましょう!


連日高温のため、中国人“朋友圈”には「夏の過ごし方や対策」などが多く見られます。7月7日から8月6日の夏の一番暑い期間を古来中国では長夏と称します。長夏は暑い以外に湿度の高さが特徴で、暑さを防ぐと同時に除湿にも注意を払わねばなりません。中医は湿度の高さを風邪と同様に重視し、湿邪と言います。湿邪にかかった時、体が重くて疲れ、眠くなり、下痢や浮腫を引き起こしやすいです。毎日空調の中にいる現代人は、猛暑の対策を考える同時に「湿」を取り除くのも重要です。
このような「湿」は一体人間の体にどんな反応があるのでしょうか?実は、「湿」があるかどうかの判断は、まず問診して症状を確認しますが、その中でもっとも大事なのは舌と苔です。正常な人の舌の苔は、うっすらと白い半透明な粘膜ようなものが覆っていますが、「湿」が籠っている人の舌の苔は比較的に厚く、舌の(本来の)色が隠れて分かりません。白く粘っこい舌の苔は「寒湿」で、黄色く粘っこい舌の苔は「湿熱」と判断されます。
夏の厳しい暑さは人体の「正気」を傷つけ、冷たい飲料は胃腸を損ない、下痢になりやすいので、くれぐれも用心が必要です。中国は「薬食同源」の伝統で、夏に湿を除くためにヨクイニンやハスの実、オニバスの実、ヤマイモなどを食べる習慣があります。食物として加えるのは良いですが、病気を治療する薬物としては専門の指導が必要です。

ダイエットと漢方薬


日本では、お腹周りが気になる人のダイエット薬として、「防風通聖散」が人気があります。街中の薬局でも気軽に購入できることも、この漢方薬の人気に拍車をかけています。
私の知人も「防風通聖散」をダイエット薬として飲み始めましたが、すぐに下痢が始まってしまいました。聞けば、「防風通聖散」を飲む前の便通は正常だったそうです。
「防風通聖散」の適応症は「悪寒発熱、昏眩、目が充血して痛く、口苦して渇し、咽喉は不利で、胸膈は痞悶し、大便は秘結し、小便は短赤である」とされています。「便秘解消→肥満解消」からダイエット薬になるという発想が出たのかもしれません。
しかしながら、「防風通聖散」は、実証向けの処方になっていますし、下剤が配合されているため、体力のない人や(私の知人のような)便通が普通の人には適しません。確かに、この漢方薬を飲み、下痢を続ければ体重は減りますが、健康的なダイエットとは言えないでしょう。
漢方薬の使い方は「用薬如用兵」と言われます。「ダイエットに効く」という宣伝文句を鵜呑みにして自己判断するのではなく、信頼できる漢方医師に相談し、自分の体質に合った漢方薬を飲むようにしましょう。

指の話


よく友人が私の所に来て「あなたは何を治せるの?」と聞いて来ます。この質問に答えるのは少し難しいです。他人からするとウソと思われるかもしれませんが、私に言わせれば、「何でも治せます」です。中医は本当に何でも治せるのです。もし治せないのであれば、それは医者の力が足りないのです。これは簡単なことではありません。医聖である張仲景は「観其脈証、知犯何逆、随証治之」と言っています。これは「中医は脈の症状に基づき、総合的に分析・判断し、治療を進めていく」ということです。今回はみなさんに、生活の中で起こった指に関する二つの症例をご紹介します。
家のお手伝いさんが「お医者さんが手の爪を剥がすと言っています。とても怖いです。どうすれば良いでしょう?」と泣きながら言ってきました。いきさつを聞いてみると、手の指を怪我して、細菌感染してしまいました。患部は痛い上に、赤く腫れ上がり熱も持っていました。先ず患部を切り開き膿を出し、抗生物質を用いましたが、赤みも腫れも痛みも一向に収まらないため、医者は「爪を剥がす」と言い出したのです。私は彼女を慰め、漢方薬を3日間飲んでもらうことにしました。もし良くならなければ、爪を剥がしに行くということで。彼女は半信半疑で「漢方薬が本当に効くのですか?」と聞いてきたので、私は「試してみて。3日すれば、効くか効かないかはっきりするから」と答えました。そして3日後には、彼女の指は見事に回復しました。私は五味消毒飲加当帰和黄芪を用いたにすぎませんでした。中医外科の入門的な方剤です。
もう一つは、日本人男性のお話です。彼はテニスをしていて、転んだ時に無理な手の突き方をしたため、中指が曲がってしまいました。西洋医学で「靱帯損傷」と診断されましたが、幾らかの鎮痛薬を貰っただけで、何の治療法もありませんでした。当院に来られた時の指の腫れはひどく、正常な指の2倍の太さでした。痛みも耐えがたく、触れることもできませんでした。また、関節は固まって、曲げ伸ばしすることもできませんでした。このような方には、「活血化瘀」の効能を持つ桃紅四物湯の服用とお灸による治療が適しています。毎回30分以上の灸治療を行うことで、腫れと痛みは徐々に消えていき、指も動かせるようになりました。前後10回の治療を行ったところ、曲がっていた指は、すっかり真っ直ぐになりました。
中国医学は深く豊かであり、最も簡単なことが往々にして最も有効なのです。

漢方の加法と減法


最近の「漢方の臨床」という雑誌で、日本漢方の文章を目にしました。以下にその文章の要約を記します。
「現代を生活する私たちは、漢方の「補」の観点による様々な食品・サプリメントに囲まれています。しかし、私は日常の診察で「患者様の“不足”はどこにあるか?(加法)」ではなく「どのようにして“余計なもの”を取り除くか?(減法)」を先ず考えます。「傷寒論」の汗法・吐法・下法や朱丹渓の「気血痰鬱」理論が基にあります。」
私は、この考え方に全くもって賛成です
 人参・西洋人参・石斛・楓斗・燕の巣・魚油・カルシウム剤・プロポリス・ロイヤルゼリー等の高価な滋養強壮品の摂取について友人達が熱く語るのを聞き、「必要のない物を食べて、みすみす身体を悪くしてしまうのではないか?」と、私は心配してしまいます。
 「実すれば則ち之を泻し、虚すれば則ち之を補す」は漢方診療と養生の原則です。現代人は飽食で、飢えや寒さに耐えられません。また、エアコンを多用し、生モノや冷たい物を好みます。そして、飲食のコントロールをせず、情緒は不安定です。やみくもに滋養を摂り、かえって病気を引き起こしやすくしています。特に、感冒や下痢等で外邪を受けた時は、滋養を摂るのを慎むべきです。  
最近流行っている「断・捨・離」の理念のように、日常の食生活においても、「滋養を摂りたい」と思ったり「健康食品を摂りたい」と思った時には、先ず「余計な物を取り除く(減法)」必要があるかどうかを考え、その後「何を加えるか?(加法)」を考えるべきでしょう。

食と健康


「食と健康」に関してのお話はこの世にごまんとありますので、あまり深入りしたくないのですが、友人とお喋りをしていますと、どうしてもこの話題になります。4~5年前「扁鹊(中国、戦国時代の伝説的な名医)の三豆飲」と関連のある文章を書きました。当時、そこで紅豆・緑豆・黒豆・薏苡仁の効能を紹介しましたが、「これらを食べてはいけない人」や「時々は良いが、毎日は食べてはいけない人」のことは書きませんでした。そこで、今回はこれらのマイナス面(副作用)のお話をしたいと思います。
①紅豆は血を補わず
紅豆の生薬名は、赤小豆で、上海人は一般的に赤豆と呼んでいます。豆の色が赤いからでしょうか、多くの人は「赤豆は血を補う」と思っています。漢方薬の本の中では、紅豆は「利水滲湿薬」に属します。味は甘・酸、性格は平、関連する臓器は心臓と小腸で、効能は清熱利水・散血消瘀です。時々お菓子として食べるのに問題ありませんが、毎日のご飯として食べるのは問題があります。特に、身体の弱っている陽虚のお年寄りには向いていません。消化しにくく、紅豆の効能である清熱利水が簡単に陽気を傷つけてしまうからです。
②冬、緑豆を食べるべからず
以前、緑豆は夏の食べ物でした。なぜなら緑豆の効能は、清熱解毒・消暑(夏バテを治す)だからです。何といっても、暑さは夏が一番です。その夏の中でも、小暑・大暑・処暑は最も暑い時期です。その時期に緑豆湯を飲むのは良いとして、他の季節はどうでしょうか?もちろん問題ありません。しかし、お菓子としてではなく、清熱解毒の効能を持つ生薬として頂きます。
③便秘の人は薏苡仁を食べるべからず 薏苡仁は米仁とも呼ばれています。漢方薬の中では、利水滲湿薬に属し、利水滲湿・除痺(しびれ)・清肺排膿・健脾止泻の効能があります。便が泥状の人や浮腫になりやすい人に薏苡仁は合っています。しかし、便秘の人が薏苡仁を食べると、便秘は更にひどくなってしまうでしょう。
以前の文章の補充として、今回の文章をお届けします。

生理不順


女性は、毎月やって来る生理に本当に悩まされます。「痛み」は言うまでもありませんが(「生理痛」については3月29日号をご覧ください)、「痛み」以外にも様々な悩みがあり、生理周期や期間の長短・経血の量(特に大量出血の場合は、救急車で運ばれることもあります)などがそれです。数千年もの間、中華民族は漢方とともに生活してきました。今から百年前でさえ、先賢達は一本の鍼・一掴みの薬草で命を救っていました。
「私は明確な診断をするために各種検査を行うことに反対ではありません。しかし婦人科病の手術の前に、先に漢方治療を行ってみたらどうですか?」と提案すると、多くの人が「漢方治療は時間がかかると言われています。治療が手遅れになりませんか?」と質問するかもしれません。私の個人的な見解は、「漢方が有用かどうか?1~2週間の漢方治療を試してみれば身体の変化を感じることができるので、それでもって漢方治療を続けるか否かを決定すれば良い」です。もちろん、完治にはケースバイケースが必要です。
生理不順には多くの原因がありますが、いくつかの共通点があります。
①夏、涼しさを求め過ぎる・エアコンの冷やし過ぎ・冷たい物の摂り過ぎ・冬、おしゃれによる手足の露出:これらは、冷えの侵入を簡単に許し、正常な血液循環を妨げます。
②情緒不安定:これは、正常な気の流れに影響を与え、気や血の滞りを生み出します。
③飲食における不摂生:生ものや冷たい物の食べ過ぎ・脂っこい物や辛い物の食べ過ぎ・過度なダイエットなどです。適切な飲食は、気と血の根源であり、身体の維持や生命活動の源になります。
最後に、いったん問題が発生したら、積極的に治療すべきです。漢方治療を試してみるのも良いでしょう。

便秘


便秘とは、お通じが出ない状態をいい、医学的には、「排便が2~3日に1回程度あって、“なかなか便が出ない”“便が出ないと苦しい”といった自覚症状がある場合」とされています。
便秘でお悩みの方は、成人全体で約14%、7~8人に一人と言われています。男女別・年代別ですと、20~40歳代の女性と70歳以上の男女に便秘の多いことが分かっています。.肌荒れやニキビの原因にもなる便秘は、女性の大敵とも言えます。
漢方では便秘を大きく4つに分類します。
①熱秘タイプ:辛い物やお酒の摂取しすぎにより、胃腸に熱が籠って便秘になります。
②気秘タイプ:気血の巡りが精神的ストレス等で悪くなり、腸の機能が低下して便秘になります。長時間座っている人や運動不足の人もこの便秘になりやすいです。
③虚秘タイプ:気の不足の「気虚」と血の不足の「血虚」が便秘の原因となっているタイプ。長期間病気を患っていたり、老化により気血が不足した場合に便秘になります。
④寒秘タイプ:冷え等が原因で、身体を温める機能が低下したことが原因で排便しにくくなり、便秘になったタイプ。
漢方の便秘の治療法は、体質改善を行いつつ、お通じの状態を整えるという方法です。便秘の患者様の多くは、下剤を使用していることが多く、連用すれば、常習性となる事が多いです。下剤の増加や連用に悩んでいた患者様が漢方によって、下剤の減量又は使用しなくてもよくなったケースも多くみられます。常習性便秘で悩んでおられる方は、一度漢方を試してみられてはいかがでしょうか?

生理痛


殆どの女性は、毎月必ず何日間か調子の悪い日があります。軽い腹痛を伴う出血は、女性にとって、ごく普通の生理現象なので、その痛みは「生理痛」と呼ばれています。「生理痛は病気ではない」と一般的に思われがちですが、「痛みがひどくなると鎮痛剤を飲まずにはいられない」という方も少なくありません。
私の患者様の一人に、結構有名なアナウンサーの方がいます。彼女も生理痛が十年以上続き、殆ど毎日鎮痛剤が必要でした。しかも、ひどい時には一種類の鎮痛剤では足りず、「そのうち飲む薬がなくなるのではないか?」という不安から私のところに来られました。彼女は一年以上漢方薬を飲んで、どうにか痛みのある日数は減り、程度は軽くなりましたが、まだまだ先は長いと思います。
このような毎月の煩わしさから、生理が来なくなるようにするホルモン・ピルを飲まれている女性もいらっしゃいます。
その方は仕事が忙しく、「生理痛は面倒だから」という理由から、ホルモン・ピルを飲んで、生理を止めていました。しかし、「最近結婚したので、子供が欲しい。ホルモン・ピルを止めて、正常の生理に戻したい」というご希望で来院されました。まだお若いので2・3か月の漢方で生理は正常に戻りましたが、排卵後の高温期を維持できないため、漢方薬を飲み続けています。
「結婚したから子供が欲しい」と思うようになっても、ホルモン・ピルが原因で子供ができなくなるケースもあります。不妊治療のために、ホルモン剤やいろいろな最新医療技術を求め、最後にどうにもならなくなった段階で「漢方でなんとかならないですか?」と来られる患者様も当院にはいらっしゃいます。本来ごく簡単な病気が、複雑になってしまった結果です。
本来、女性の生理不順は、よほどの生理的な問題が無い限り、漢方で殆ど治すことが可能です。上記の2例は極端かもしれませんが、やはり早い時期に治すべきと思います。

大人のアトピー(ある日本人患者様より)


私は、小さい時からアトピーに苦しみ、ずっとステロイド剤を塗ってきました。その中で、忘れられない出来事がありました。
それは、私が大学を卒業し、初めて就職したばかりの頃です。
当時の私は、会社の近くの皮膚科に通い始めたのですが、その時の医者は、ステロイド剤を出すだけでなく『この石鹸を買え』『このシャンプーがいい』『洗剤も買え』と診察のたびに勧めてきたのです。しかし、勤め始めたばかりの私にとってそれらは安い買い物ではありませんでした。
私は躊躇し、ある時「これを全部買ったら、アトピーが治るんですか?」と聞きました。その質問は、彼にとってよほど意表をついたらしく、まるで信じられないバカを見るような目で「治るわけないじゃないですか、アトピーなんだから!」と言いました。
その瞬間、私の頭の中は真っ白になり、怒りで声が震え、やっとの事で「あんたそれでも医者か!」と一言だけ言って、それきりその病院にはいきませんでした。
アトピーであることが本当に悲しかったです。医者のビジネスの為にステロイド依存症に仕立て挙げられているとさえ思いました。
絶対ステロイドをやめてやると思ったものの、中々それは、かないませんでした。他の対処方法がわからなかったからです。
ステロイドをやめ、アロマオイルだけを塗り、手足が3廻りくらい腫れ上がったこともあります。
しかし私の苦しみは、葉先生と出会うことで終わりました。
漢方でアトピーを治療する場合、何年もかかり、その間地獄のように肌がガサガサになり、包帯だらけになるというイメージを持っている人がいませんか?実は、私がそうでした。
しかし、しっかりとした先生に診てもらい、自分の症状に合わせて調合してもらった漢方薬は驚くほど、早く効きます!薬を飲み始めて2週間ほどで、体の腫れはほぼなくなり、皮膚の表面の熱っぽさも無くなってきたのが実感できました。それに伴い痒みもほとんどなくなりました。その後半年が経ち、完治とはいきませんが、かなり状態はよくなっています。炎症だけでなく、肌全体の色が明るくなり、肌の奥の方まで潤いも感じます。
皮膚が荒れている時は、人に会うのも嫌だったのですが、今ではそれもなくなりました。
医者でもない私が、ここに書かせてもらった理由は、『アトピーは治る病気である』ということを伝えたかったからです。
西洋医学では無理でも、ちゃんとした漢方の先生に診てもらえば、治ります。この文章を読んでくださった皆様の中でアトピーで苦しむ方がいらっしゃったら、ぜひ葉先生に相談してみてください。人生を変えるチャンスになると思います。

身体の中から肌を蘇らせましょう!

前回のアトピーの話は、反響が大きくて驚きました。それほど肌のトラブルについてお悩みの方は多いのでしょう。

その後、アトピーの患者様から「乾燥肌と痒みがひどかったので、初めて漢方薬を処方してもらい飲んでみました。2週間ほど経ちましたが、肌の表面が潤ってきて痒みも無くなり出した感じがします。何故このようなことがが起きたのでしょうか?」というご質問を頂きました。

 漢方薬で、肌のトラブルを治療する時に、塗り薬を想像する方もいらっしゃいますが、実際は飲み薬での治療がほとんどです。乾燥肌と言っても、患者様ひとりひとりの原因や体質が違いますので、それを見極め、それぞれに合った漢方薬を処方します。身体の中から陰陽のバランスを整えていくのが、漢方の基本です。

乾燥肌の場合のほとんどは陰が不足しています。そこで生薬を使って、身体の中から栄養を沁み渡らせます。その後、肌の隅々まで、潤っていき、かさぶたや痒みが治っていきます。西洋医学の点滴は、すぐにオシッコになって排出されてしまいますが、漢方の生薬は身体の機能そのものに働きかけ、本来持っているチカラを蘇らせます。もちろん、肌のトラブルの全てが乾燥だけではありません。熱や冷えもありますので、全身の状態を確認し、的確な処方が大事です。痒みだけでなく、シミ等を消すチカラまで、漢方薬にはあります。

漢方薬の使い方は「用薬如用兵」と言い、一歩間違うと全然違う結果になるので、信頼できる医師を選んでください。

 

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